※引き続き秋ちゃん視点。

それから、毎日何となくその子を目で追うようになっていた私は、段々と彼女の事を知っていった。名前は円堂紗玖夜。明るくて、何時も笑ってて…意外と甘えん坊さんで寂しがりやで。天然で鈍感で、ちょっと目を離すと何だか危なっかしいところもあるということ。…そして、風が吹こうが雨が降ろうがお構いなく、いつでも楽しそうにボールを蹴って、追いかけて走っているということ。

知っていけば知っていくほど、何だか一之瀬くんを見ているようで、心が和らいだ気持ちになった。救われたような気持ちにもなったのだ。

「紗玖夜ちゃんって…まるで一之瀬くんみたい。」
「…あの子は一之瀬とは違う。」

思わず楽しくなって笑えば、土門くんが初めて口を開いた。驚いてそちらを見れば、何だか思いつめたような表情で俯いて呟く。

「俺はいつも…一之瀬の背中を見ているしかなかった。どんなに走っても、走っても追いつけなくて…でも、あの子は違う。いつも隣で走っているみたいな感覚がして。円堂となら、いつまでも走っていけるような気がするんだ。」

今まで背負ってきたであろう苦悩を言葉に乗せるように呟く土門くん。怒っているだろうな、と自嘲するかのように呟いた土門くんを励まそうと、口を開きかけた、その時。
勢いよくボールが土門くんめがけて飛んできて。それを受け止めれば、肩で息をしている紗玖夜ちゃんの姿が。
そして、驚いている土門くんと私に構わず、息を整え終わった瞬間、私が惹かれたその言葉をいとも容易く口にして見せた。

「土門くん、サッカーやろうよ!」

いつもの通りの楽しそうな笑顔で。土門くんがしたことなどまるで気にしていないかのように本当に何時もの通りのシンプルな言葉を口にした。

「ほら、早く!」
「あ、…ああ!」

その言葉に吊られるように腰を上げ、勢いよく河川敷のグラウンドに入っていく二人を見つめて、安堵の息をついた。
…これで、大丈夫。私が彼女に救われたように、きっと彼女は土門くんのことも無意識に救ってくれるはず。

「一之瀬くん…これで、良いんだよね。」

呟いた言葉は、空へと溶け込んで消えた。



 


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