見慣れた稲妻町を走り回って、見慣れた背の高い男の子の後姿が無いかを必死で目を凝らして探す。…ああ、此処にも居ない。

夏未ちゃんの後についていって、バスの調子を確認して終わるものだと思っていた。…なのに、そこで知らされたのは冬海先生が帝国学園のスパイだったということ。バスに細工をして、わたし達を決勝戦に出さないようにしようとしていたということ。…そして、土門くんが、もう1人の帝国学園のスパイだということ。

ショックだった。今まで厭味を言われようが皮肉を言われようが、冬海先生は顧問で、わたし達が強くなれば認めてくれるかな、と思っていたのに。
…そして、気になるのは土門くん。帝国のスパイだと疑いを掛けられて…見ていられなくて庇ったら、ごめん、と力なく呟いて走っていった。確かに、帝国から来たのだと見ても良さそうだ。

でも、やっぱりわたしには土門くんが悪い人のようには思えなかった。さり気なく皆のモチベーションをあげてくれたり、試合にはきちんと貢献してくれたり。…それに…冬海先生がバスに細工したことを知らせる手紙。あれは、土門くんが書いた手紙だった。告発してくれなければ、わたし達はひどい目にあっていただろう。それを、自ら告白してくれたのだ。…うん、やっぱり土門くんはいい人だよ。
ともかく、土門くんを見つけなければ話にならない。残り少なくなった心当たりを必死で探して、わたしはもう一度走り出した。

***

※秋ちゃん視点。

いつも雷門の皆が練習をしてる河川敷のグラウンドの土手に、土門くんは1人で寂しそうに座っていた。彼の目線を追ってみれば、無邪気にボールを追いかけている三人の子供がいる。…何だか、昔を思い出すようで。ああやって、昔は何も考えずに無心にボールを追いかけていたのだと、切実に思う。

「土門くん。」
「…。」

声を掛ければ、力なく顔をこちらに向けて、微かに苦笑いの表情を作る。
その顔を見て、それからもう一度河川敷のグラウンドに目をやれば、自然と言葉が口をついて出てきた。

「…昔の私達、あんなだったよね。」

三人で、いつも。思い出せば懐かしくて楽しくて、けれど切ない思い出。私と土門くんと…それから一之瀬くん。いつもいつも、三人でボールを追いかけていた、あの頃。
けれど、私は一之瀬くんの事故から、ボールを見るのも嫌だった。ボールを見れば、必ず思い出してしまうから。忘れようとしたって忘れられるものじゃないけど、兎に角、見ているだけでも辛かったのだ。…でも。

「あれからボールを見るのも嫌だったんだ。…でもね、紗玖夜ちゃんに出会って、ちょっとずつ変わっていったの。」

―ずっとボール見てるけど、あなたもサッカーやるの?
中学に入ってすぐ、偶々サッカー部の近くを通ったときに声を掛けてきた女の子。ふわふわした長い茶色の髪と、大きな瞳を持つ私より小さな女の子が楽しそうに目を輝かせてこちらを見ていた。…それが、紗玖夜ちゃんだった。

サッカーはもう止めたんだと告げれば、そうなの?と残念そうに首を傾げて落ちていたサッカーボールを拾い上げる。そして何を思ったのか逡巡して…もう一度ぱっとこちらを見て顔を笑った。

―ねえ、じゃあサッカー好き?
好きだけど、と声を濁せばそっか!と楽しげにころころと笑って、じゃあ一緒にまたサッカーしてみない?とサッカーボールを持たない片手をこちらに差し伸べてきた。
まだ名前も知らない女の子にそんな事を言われて、戸惑いはしたけれど…それでも、不思議と気付けばその子の手を取ってしまっていて。
気付けば昔のように、彼女と夢中になってボールを追いかけていた。



 


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