「どうしたの秋ちゃん。何て書いてあるの?」

少しだけ頬を染めてメモを凝視して唇をわななかせている秋ちゃんに続きを促せば、少々戸惑ったように、躊躇うように口を開いた。

「…尾刈斗中との試合前も、メイド喫茶に入り浸っていた…ですって!」
「メイド喫茶、ですと!?」
「…メイド喫茶…?」

聞きなれない単語に思わず首を傾げる。夏未ちゃんも半眼で何それ?と言っていた。
メイドさんと言ったら、お金持ちの家に奉公している女の人の使用人さんの事…だよね。

「メイド喫茶って、メイドさんがいっぱいいるところなの?」
「そうですよ!知らないんですか紗玖夜さん!」
「ふうん…それじゃあ秋葉名戸の人ってお金持ちばっかりなんだね。帝国みたいな感じなのかな?」
「…へ?」

思わず感心してそう呟けば、周りの人が一斉にドン引きしたような目でわたしを見てきた。…あれ、何かわたし変な事言ったかな?

「…待て円堂。どういう経緯を辿ったらそういう結論に行き着くんだ?ちょっと説明してみろ。」

一郎太も微妙な顔をして眉をハの字にしてわたしを見て口元をひくつかせている。

「だから…メイドさんって、中世の貴族とかに仕えてた女性の使用人さんの事でしょ?そんな人がいっぱいいる喫茶店ってことは凄く高級な喫茶店ってことなんじゃないの?」
「ああそっちを連想するか…。」

一郎太が安心した様な呆れた様な微妙な顔つきで溜め息を吐く。他のメンバーもまた微妙な顔をして視線を彷徨わせている。…いったい何だというんだろうか。
そんな微妙な空気が漂う中、目金くんだけが異様に目を煌めかせてわたしに力説し始めた。

「何を言っているんですか!メイドは萌えですよ!?」
「も…もえ…燃え?燃えちゃうの!?危ないよ!?」
「その燃えじゃありません!“萌え”です!」

その後、春奈ちゃんが入って次の試合相手を報告しに来るまで懇々とその“萌え”とやらについて語られた。…半分も意味が分からなかったが。

***

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

お店に入った瞬間、女の子の甘ったるい声がわたし達を出迎えた。…迎えられたんだよね?
春奈ちゃんによって知らされた試合相手は、何とフットボールフロンティア最弱の呼び名が高い秋葉名戸の方だった。あの尾刈斗中を1-0で下したらしい。
これは思ったよりも強い学校かもしれない、だから秋葉名戸の人たちが入り浸っているというメイド喫茶に偵察に行こう!…と、目金くんの力説によって皆してこのメイド喫茶とやらにやってきたのはいいのだが。

「…あの女の子…可愛いなあ、メイド服って一般の人にも似合うもんなんだね…。」

中に入ってみれば何と言うか…女の子受けするピンクな感じのデザインで思わず目が奪われる。いいなあ、ああいうの。…わたしの場合、何か自分じゃ似合わない感じがするから絶対出来ないけど。

「ねえねえ一郎太、あの子達凄く可愛いね!いいなあ、羨ましいなあ…。」
「…お前よくこの空気に呑まれないな…。」
「え?普通に可愛いよ、このお店。目の保養になるってきっとこういうことなんだろうね…。」

思わずちょっとナーバスになりかけたが、とりあえず女の子が可愛いのは全世界共通なんだなあ、と思い返す。…わたしは除いて。あと一郎太も可愛いと思う。言ったら怒られるけど。

「ご注文は何にいたしますか〜?」
「ええと…じゃあ、ピンクのときめきミルクティー1つ、お願いします。」
「かしこまりました〜!」

何か色々とファンシーな名前がついたメニュー表を眺めつつ注文を決め、向かいに座った一郎太の様子を眺める。必死にメニューで顔を隠してるけど、きっと顔が真っ赤になってるんだろうな。昔から一郎太はわたし以外の女の子には弱かったから。
…あれ、何かわたし女の子扱いされてない?
今更ながらの事実に気付いて、深い溜め息を吐きそうになるのを何とか堪える。…ま、何時もの事だし、いっか。




 


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