後半戦開始。何処と無くばらつき始めた御影専農はそれでも、やっぱりこちらにボールを渡すまいと必死で守っている。攻めてくる様子も見えない。

「…このままじゃ…。」
「どーする?俺も上がろうか?」

思わず悔しさから唇を噛めば、近くにいたDFの土門くんが明るめの声でこちらに話しかけてきた。その言葉に、ハッとする。
…そうか、誰も攻めて来ないなら、わたしがここに突っ立ってる意味なんて無い。それにあの人たちはやたらデータを大事にしていた。…ならわたしが攻撃に参加するなんていう発想は絶対に無いはずだ。
一気に巡った考えに衝動的に体が動く。

「ちょ…えええ!?」
「ごめん土門くん!ゴールよろしく!」
「ゴールよろしくって…!本来はGKの役割でしょーが!」

後ろで土門くんが叫んでいるのを聞きながらボールをキープしつづける三人に向かって突っ込む。そしてそのままボールを奪った。予想したとおり、相手方にわたしの動きを予測していたものは誰もおらず、そのままやすやすとボールを奪い、わたしは杉森くんの立つゴール前まで走り、思いっきりカーブをつけたボールを蹴る。
驚いた顔のまま、それでも彼はGKとしてシュートを止めた。…まあ、そう簡単には入らないよね…。

「…何故だ…!?何故こんな危険なマネが出来る…!?」
「…だって攻めて来ないんだもん、わたしが蹴ったっていいでしょう?…それに、久しぶりにボール蹴れて、凄く楽しかったし!」

思わず笑みが零れるのを自覚しつつ、自陣に向かって踵を返した。…ポジションについた途端、一郎太と土門くんには盛大に怒られてしまったけれど。

***

遂に御影専農が動き出した。どうやらわたしのシュートが杉森くんにちょっとは影響力を与えられたらしい。
どんどん攻めあがってくるFWの人たちを、それでもわたしたちのチームも負けじとそれに対抗するかのように相手からボールを奪い、攻めあがろうとする。…が、御影専農のほうが一枚上手だったらしい、相手に再びボールを奪われてしまった。
そして、そのまま迫るシュート。何とか弾くものの、ボールが零れてコーナーへ出てしまった。

しかし、何がどうしたのか、そこで初めて御影専農中のフォーメーションが崩れた。そして、崩れたまま再びシュートが打ち込まれた。…時に、夏未ちゃんに渡された秘伝書の中に微かにうっすらと残っていたシュート技を思い出す。…今なら、試せるかも。

一か八かの賭けの中、そのままゴールから離れてボールへと走る。皆から驚いた声が上がり、相手方も驚いているようだが気にしない。走ると同時に揺れて前へ出てくる髪の毛を払いのけて、一番前線にいた豪炎寺くんに向かって叫んだ。

「走って豪炎寺くん!」
「ッ!?何をする気だ円堂!」
「いいから!タイミングを合わせて、わたしと一緒にボールを蹴り返して!…お願い、信じて!」

それだけを告げれば彼は黙ってわたしに並んで隣走し始める。そして下鶴くんのパトリオットシュートが墜落してくる、その瞬間を狙ってわたしと豪炎寺くんが同時にそれぞれ片足を出して、そのシュートを弾き返す。
元々あった勢いや力をそのままに、更にわたしと豪炎寺くんの力を追加して、更に激しい勢いのシュートが杉森くんを襲う。そして。

「…やった!1点入ったよ豪炎寺くん!」
「ああ!よく思いついたな、あんな技。」
「わたしが考案した技じゃないよ。元はお爺ちゃんが作ったんだと思う。…かなり薄くて、消しかけた跡があったから…誰も完成させられなかったのかなって思って。」

ともかく、1点入ったことに勢いづいた雷門中はそのまま反撃の態勢に入る。…このまま、逆転劇が始まった。

***

結局、この試合は2-1でわたしたちの勝ちに終わった。勢いが増したわたし達はその後様々な個人の身体能力の伸びを見せ付けて、ドラゴントルネードで1点を追加して逆転勝利。
勿論、身体能力成長の後押しをしてくれたのは、夏未ちゃんが探してくれたイナビカリ修練場での特訓のお陰であることにも大きく感謝しなければならない。
…あちら側の監督さんは、逆転されたことで失望してベンチを去ってしまったようだけれど…でも、今の御影専農の人たちを見ていたら、別に問題ないと思う。きっと彼らは、彼らだけのサッカーを今から見つけていくに違いない。
選手同士の礼が終わってから握手を求められて、それに応じつつそう思う。そう思えるくらい、杉森くんの顔はすっきりと憑き物が落ちたかのような顔をしていた。

「ありがとう。…楽しかったよ。」
「…こちらこそ、ありがとう。ようやく、君のいうサッカーの楽しさや面白さが分かってきた気がする。」
「それはよかった!…また試合しようね。」

大きな杉森くんの手を握りながら、その日が来るのが待ち遠しくなった。きっと、次に戦う時彼らはもっと強くなっているだろう、そんな事を考えながら。




 


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