「結局、必殺技は出来なかったようですね。どうやって戦うつもりなんですか?」
(また出たよこの先生の厭味…。)

その数日後、試合当日。わたしたちは試合が行われる御影専農中のグラウンドに来ていた。何だか無機質な機械が一杯で学校って言うよりテレビ局みたいな感じに見えた。
お手洗いに行けばあの杉森くんにあってこの間みたいなことを言われるし、帰ったら帰ったでこの冬海先生の厭味。…やっぱりこの間渡したお土産のキノコが悪かったのかな…食べちゃったみたいだし、お腹壊したみたいだし。

「…出来るだけの事はしました。後は、それを全部出し切って戦います。…それだけです。」

ぎゅ、っとグローブをつけた手を組んで、目を閉じる。微かに震えているような手のひらは、きっと緊張している証。…でも、負けられない。するべき事は全部した。だから、あの人達の“害虫”発言、絶対に撤回させてみせる。
そっと目を開いた時、こちらを見ていた豪炎寺くんと染岡くん、一郎太と目が合った。
それぞれの目が今の思いを告げているように見えて、一人ではないことを感じさせてくれて。
自然と肩の力が抜けていく、その気配に安心して、わたしは皆に声をかけた。

「よし!皆、頑張ろうね!」

いよいよ、御影専農中との試合が開始した。

***

…ピピー!
前半戦終了のホイッスルが鳴る。…0-1、リードされたまま前半戦を終えてしまった。
確かに勝ちを宣言するだけあって、御影専農中のプレーは攻めも守りも完璧だった。攻めはとても速く強く、守りは固かった。
何度連続でシュートを狙ってもかろうじてとはいえ、全てあの杉森くんに防がれてしまい。わたしに至ってはトラップに引っかかってゴールを許してしまう始末。

…が、それよりももっと気に食わないことが前半戦の後半…そう、相手方が1点を取ってから行われた。
御影専農が全く攻めてこなくなったのだ。その代わり、まるで時間を稼いでいるかのようにゆっくりとパス回しをしはじめたのだ。
何としてもこの試合、勝ちたいらしい。しかも、こんな…こんな小ずるい手を使ってまでも。
…馬鹿にして。わたし達もだけど、サッカーを馬鹿にしてる。

「杉森くん、どういうことなの。」
「…どういうこととは、どういうことだ?」
「さっきの試合。やる気無いの?どうして点を奪いに来ないの?」

わたしの感情が左右して自然と口調がきつくなる。後ろで何処と無く一郎太や豪炎寺くんが心配そうにこちらを見ている気配がしたが、そんなのいちいち構っていられない。

「…10点差だろうが1点差だろうが勝利は勝利。リスクを負わずにタイムアップを待つ。それが一番確実な方法だ。」
「…面白くない考え方だね。どうしてそんなに面白くない試合が出来るの?」
「…面白い…?」

わたしの言葉を少しだけ戸惑ったように杉森くんが反芻する。わたしの言った意味が、いまいち掴みきれてないらしい。

「サッカーは面白いもの、でしょう?チームメイトと同じものを目指して、同じフィールドで、同じ気持ちで相手と向き合って全てを出し切ってぶつかり合う。…それがサッカーの面白さであり、素晴らしさだよ。」
「…君の話は理解不能だな。」
「わたしもあなたの言うことは全然わかんないよ。理解したくも無い。…後半戦、絶対に取り返すから。どちらが正しいのか…そこで必ず証明してみせる!」

それだけを宣言すると、わたしは踵を返して向き合っていた杉森くんに背を向けて自陣の休憩所に戻る道を歩き出す。直ぐ後ろに来た豪炎寺くんがひっそりと呟いた。

「…俺は円堂の意見に賛成だ。必ず俺たちの意見が正しいと証明しよう。」
「…そうだね。」

後半戦で、必ず逆転してみせる!




 


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