雷門への偵察が活発になったらしい。…いや、らしいっていうか活発になったんだけど。
野生中に勝ったことにより、勢い付いたわたしたちは河川敷のグラウンドで練習していた。…が、何か気付いたら人が集まっているのが見えて。
何だろうね?と秋ちゃんと首を傾げてそれを見ていたら夏未ちゃんが車で河川敷のグラウンドに乗り込んでくると言う何とも危険かつ大胆な行動で登場して。
…そして、橋の上やら何やらに集る人が偵察の人たちであると言うことが知らされたのだ。
「うーん…やっぱり野生中に勝ったから気になるんでしょうねえ…何せ去年は地区決勝まで行ってますからね、野生中は。」
「しかも相手が無名校だから余計に、ってところかなあ…。」
「だろうね〜。」
休憩がてら、マネージャーの2人と話しつつも横目で偵察の人たちをみやる。
その数は一向に減る様子がなく、むしろ逆に増えているような気もしないでもない。…困ったことだ。
偵察されていると気付いてから、なるべく必殺技の特訓をするのを止めてしまったのだ。豪炎寺くんや夏未ちゃんと相談した結果、相手にわざわざ弱点を教えてやることになるからという結論が出たからだ。
…しかし、やはり勝つには必殺技が必要ではある。
確かにサッカーは必殺技だけが全てではなく、サッカー以外にも当てはまることだが基礎基本が何よりも大事だ。
例えば正確なパスが出せる事とか、ドリブルの速度を上げるとか…必殺技以前にそういう当たり前の事が出来なければまず試合にならない。
少しばかり基礎的な特訓を入れようかと思っていたからちょうど良いと言えばちょうど良いのだが…。
「…やっぱり基礎練習だけじゃ皆つまんないよね…。」
「実際とってもつまんなさそうですね、皆さん。」
…そう、基礎練習は飽きが来るのが早いのが欠点とも言える。大切な事であるがどうしても難易度的には簡単で無くとも淡々とこなしていくものが多いので、1日中これをやっていたら飽きてしまうのだ。実際、飽きる人は3日位で音を上げた。
このままでは不味いと思ったから、夏未ちゃんに何処か秘密で特訓できる場所が無いかと聞いたら、一言。
「そんな都合の良い場所があるわけないでしょ…。」
と、若干呆れた表情で言い切られた。…ですよね〜。
「おい、何だあれ!?」
突如として上げられた土門くんの声につられるようにして河川敷の土手の方に顔を向ければ。
「何あれ…。」
今までに見た中で一番大きなトラックが騒音を立てつつ河川敷のグランド周辺に止まる。
唖然としてそのトラックを見上げていると、中から男の子が2人、連れ添って出てくるのが見えた。
「…偵察、かな?」
「多分ね…。」
何処と無く不安げな秋ちゃんと囁きを交わして、ざわめいている皆を落ち着けるように練習再開を告げる。
…こんな時だからこそ、わたしはちゃんとしてないと。だってキャプテンなんだから。
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