前半戦終了、0-0。
でも野生中のリードのままでずっと攻められっぱなしだった。
前半戦が始まってちょっとしてから、すぐさま豪炎寺くんに代わってシュートを決めようとした染岡くんがあっさりと相手のチームのボールカットに巻き込まれて足首を捻り、ベンチに下がってしまう羽目になって、代わりに土門くんがピッチに。
土門くんのスライディングでマイボールにはするものの、イナズマ落としは壁山くんがどうしても高いのを怖がってしまって中々完成しないまま、相手にボールを渡してしまって…という、悪循環がずっと続いていた。
手のひらが痛むのを、何とか唇を噛んで堪える。
グローブの中の手がじんじん痛んでいる。多分、ちょっと腫れかけてるんだろう。
…でもこんなことで、弱音なんて吐いていられない。
バレたらチームの士気にも関わるため、必死で隠していたのだが…あっさり一郎太に見破られてしまった。
「…お前、手が痛いのか?」
「だ、大丈夫だよ!」
グローブを外さないまま、何とかその場を凌ぐ。一郎太や染岡くんは何か不満そうにわたしを見ていたけど、わたしが外れてしまえばGKがいなくなることになるから何も言っては来なかった。
「…大丈夫、後半も絶対ゴールは守りきるから!…あとは、壁山くんと豪炎寺くんが後半、イナズマ落としを決めればそれで完璧だよ。」
しょんぼりしている壁山くんと、何時にも増して険しい顔をしている豪炎寺くんに向かってそういえば、壁山くんが大きな身体を縮ませて、わたしの名前を呼んだ。
「…キャプテン…。」
「なに?壁山くん。」
呼ばれるままに問い返せば、壁山くんは更に身体を縮ませて何か言いたげに口を開いたり閉じたりとせわしなく、落ち着かなさそうに、そわそわした様にしていたが…沈黙に耐えられなくなったのか、遂に口を開く。
「…俺を、ディフェンスに戻してください。」
「壁山くん…何を言って…。」
「出来なければ、交代してください。…俺、やっぱり無理ッスよ…。」
もう耐え切れない、というような顔をした壁山くんはそれっきり黙ってしまった。豪炎寺くんはそれを見て更に顔を険しくする。…そのドヤ顔みたいな顔は怖いよ豪炎寺くん…。
ともあれ、わたしはひとつ溜め息を零すと、はっきりと壁山くんに告げた。
「…お断りするよ、壁山くん。わたしはあなたをディフェンスに下げるつもりもないし、かといって交代させる気もないから。後半もあなたをFWにおいて、何回でもあなたたちにボールを渡すよ。」
「でも…何度ボールをあげてもらったって…。」
「壁山くんは…高いのコワいって言いながら一生懸命努力してたよ。努力したら、必ず自分に帰ってくるものだよ。自分を信じて、壁山くん!」
「…。」
それから僅かな休憩時間の合間、壁山くんと豪炎寺くんは黙りっぱなしだった。
縮こまってしまった壁山くんからは見えなかっただろうけど、弟のサクくんはじっと壁山くんの背中を見つめていた。…弟くんにちゃんと活躍してるとこを見せてあげないとね、壁山くん。
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