尾刈斗中からのキックオフによって始まる試合。
マックスくんのブロックをすり抜けて渡るボールに少林くんのスライディングによって弾かれる。それでもボールをキープし続ける尾刈斗中に豪炎寺くんがボールを奪おうとするも、やっぱり厳しくマークされていて中々ボールには近づけていない。
壁山君も抜かれて、わたしとあちら側のFW、月村くんとの一騎打ち状態になる。
「くらえっ!ファントムシュート!」
「ゴッドハンド!」
襲い来るボールを先日きちんと習得しておいたゴッドハンドで止める。…うん、完全に使えるようになってる!
「物にしたな、円堂!」
「うん!…皆!落ち着いて行こう!」
自分の事のように嬉しそうに言ってくれる一郎太に笑いかけて、わたしはボールを渡しつつ皆にそう声をかけた。一年生の顔が一気に明るくなり、皆の動きが少しだけ早くなった気がした。
皆上がれ!という一郎太の声を受け、皆が一気に敵陣に向かって走り出す。
少林くんはボールを受け取りすぐさま豪炎寺くんにまわそうとするけれど…流石にマークが厳しくて渡せなかった。そしてその代わりに染岡くんが飛び出す。
「…これが俺のシュートだ!ドラゴンクラッシュ!」
青い綺麗な東洋の竜を思わせる迫力を纏うボールが一気に尾刈斗中のゴールに突き刺さる。…一点、先制。
あちら側の監督さんも流石に驚いているのか、思わず立ち上がりかけていた。向こうの選手さんも少しざわめいていた。…多分、予想外だったんだろうな。
「どうだ円堂!」
「凄い凄い!染岡くん、その調子!」
こちらに向かってガッツポーズをしている染岡くんに手を振る。一点先制したことによって皆の気持ちが一様に上がっていることがうかがい知れた。…うん、いい流れ。
このままいけるといいんだけど…。
***
そのまま染岡くんのシュートでもう一点追加して、2−0。わたし達の優勢だ。
一郎太を始めとする雷門イレブンは皆もう勝てると思い込んで元気付いていた。…でも、豪炎寺くんだけがなんだか険しい顔をしている。
かくいうわたしも、何だか簡単すぎて何だか妙な感じを感じていた。
…その時。
突然地木流監督が立ち上がり、何か呪文のようなものを呟き始める。よくよく見れば、何か怖くなってるような感じもする。
そして、尾刈斗中のメンバーもまた攻撃の態勢になって自陣に走りこんできた。
…でも、その尾刈斗中を目の前にしているメンバーの様子が少しおかしい。
しきりと目を擦ったり、きょろきょろとしている。…どうしたのかな。
「来るぞ!少林は9番、マックスは11番のマークにつけ!」
一郎太の声に反応して彼らもすぐさまマークをするべきゼッケンをつける選手のところへ移動しようとする。…かのように見えた。
「何やってんだ、お前ら!」
でも実際は少林くんは半田くんを、マックスくんは宍戸くんを間違ってマークしてしまっている。しかも、本人たちは言われて気付いたようだ。
これは一体、どういうことなんだろうか。
そうこうしているうちに、既にFW陣がわたしたち雷門のディフェンスラインに立ち入ってくる。
「皆、落ち着いて相手の動きをちゃんと見て!」
「無駄だ!ゴーストロック!」
少林くん達の妙な行動によって生まれた緊張がDF陣にもたらされ、強張った感じのプレーをする彼らに声をかけるも、直ぐに相手のキャプテン、幽谷くんによってかき消されてしまう。
「あ、足が…!」
「動かないッス…!」
幽谷くんの手から放たれた波動のようなものがわたしを含む雷門のDF陣を襲う。その途端、足が全く動かなくなってしまった。…これは、昨日春奈ちゃんが入手したビデオと全く同じ光景…!?
足が動かないんじゃ、そもそもシュートを止められない。幽谷くんが放ったファントムシュートを止めきれず、結局一点を返されてしまった。…不味いな、皆の士気が下がっちゃうかも。
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