角間くんの実況が始まる中、既に部室からでてアップを始めていたメンバーの元へ戻る。一郎太とマックスくん、半田くんがお帰り、と声をかけてきたので、それに返事をしてふと問題の二人を見比べた。

「…何あの二人の距離は。」
「いや、一緒にいたら気分悪いとか言ってさ…。」

半田くんがとほほ、という顔をして染岡くんと豪炎寺くんを見比べている。…二人は本当にグラウンドの隅っこと隅っこ、しかも本当に真逆の位置でアップをしていた。
…大丈夫なのかな、この試合。いや、確実にこのままじゃ大丈夫じゃないよね。
ていうかこの二人を2トップに置いたけど…どうしよう、変えたほうがいいかな…。

もんもんと悩んでいたら、不意に周りの生徒がざわめく。…尾刈斗中が来たようだ。
一郎太の呼び声にハッと意識を取り戻し、そちらの方を見た。尾刈斗中のメンバーが全員並び、こちらのグラウンドに入ってきている真っ最中だった。

彼らが現れたことにより、何だか急に寒気が走ったような気がして一瞬ぶるり、と本能的に震えてしまう。

「…不気味だ…。」
「いやお前が言うなよ。」
(確かに…。)

影野くんの呟きに即座に突っ込む半田くんに思わず頷きかけて危うく留まる。…うんごめん、影野くんも後方で黙って立ってたらあんな感じだから、なんて。口が裂けても言えない、そんなこと。

ざっと選手が互いに向き合って並ぶ。冬海先生が、あちらの監督さんと握手している間、尾刈斗中の選手がわたしに向けてきた視線は…スルーしておこう。何か下手な事いったら呪われそうな感じがする…。

「君が豪炎寺くんですね?」

あちらの監督さん…地木流さんという人が豪炎寺くんに話しかけるのをひやひやしつつ見守る。お願いだから変な事言って染岡くんを苛立たせないでほしい。
…というわたしの心中など気にもせず、あっさりあちらの監督さんは染岡くんを苛立たせ、あまつさえ挑発までしてしまった。…ああもう、何でこう、男の人って言うのは…!

「その言葉、聞き捨てなりません!失礼にも程がありますよ。」

あまりの挑発の酷さにわたしも耐え切れず、染岡くんと監督さんの間に割って入る。冬海先生が何か言ってるけど…この際もうどうでもいい。
自分よりも背丈の高い監督さんを見上げて睨む。…確かに弱小だけど、だからってこんな風に馬鹿にされるのはやっぱり気分が悪い。

「…貴女がキャプテンですか?これはこれは…可愛らしい方ですね、驚きました。」
「…どうも、お褒めの言葉有難うございます。そういう貴方はとっても面の皮が厚くていらっしゃるんですね。」

わたしの睨みなど気にもせず、顎に手をあてて感心した風にそう言う監督さんに皮肉を返す。あれだけ人の学校を馬鹿にしておいて、よくもまあそんな事が言えたものだ。

「おやおや…その可愛らしい外見に反する気の強さをお持ちのようですね。なるほど…これは楽しみです。」

楽しげに、どこか不気味な雰囲気をかもし出すように笑う監督さんに思わず背筋が寒くなる。何かの危険を察知したのか、すっと一郎太や豪炎寺くんがわたしの隣に来る気配を感じつつ、睨み続ける。

「…何が楽しみなんですか。」
「いえいえ…こんな話をご存知ですか?清らかな乙女は様々な怪物から狙われるものなんですよ。例えばそう…狼男とか、吸血鬼とか。」

突如妙な話をしだした監督さんに、思わず眉根を顰める。それが、今何の関係があるというのだろうか。

「うちの生徒にはそういった怪物に近い奴が多くてね…いやはや、この試合が終わったとき、貴女の身体が無事であるかどうか定かではありませんねぇ、うちの生徒に喰われているかもしれませんよ。」
「…っ…心配してくださってどうもありがとうございます。でも心配要りません。わたしには雷門サッカー部のみんながいますから。」

足が竦みそうになるのを堪え、何とかそれだけ言い返すと、監督さんと尾刈斗中の生徒が妖しげな笑みを浮かべてすっと離れていった。…途端緊張が解けてふらついた身体を両脇から支えられる。
ふっと息を吐くと、皆から大丈夫か、と問いかけられた。

「うん…ちょっと腰が抜けちゃっただけだから。…大丈夫だよ。」

心配そうにしている一郎太や豪炎寺くん、染岡くんたちに笑いかける。
少しだけ安心したように続々とわたしの周りから離れ、それぞれのポジションについてゆくメンバーの中、最後まで一郎太と豪炎寺くんが残る。

「大丈夫だよ。…もしもの事があれば、ちゃんと守ってくれるでしょう?」

ね、と二人に笑いかけると、やっと二人が納得したように、そして頼もしい限りの笑みを浮かべ、それぞれが頷いた。
…さて、そろそろ試合開始のキックオフの時間なんだけどな。



 


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