尾刈斗中との試合まで、あと僅か。残り少ししかない日数を指折り数えながら特訓に励んでいた。
染岡くんのシュートも日に日に完成に近づいていて、皆の士気もどんどん上がっていっている。…そんな時。

ついに染岡くんのシュートが、完成したのだ。
青い覇気と、ドラゴンを伴ったシュートが出現し、思わずわたしは取り損ねてしまったけれど…。

「すっげぇ…!」
「今までのシュートとは、まるで違う…!」
「何か今、大きなドラゴンが見えなかったか…!?」
「僕もそう見えました…!」

皆口々にその技を凄いものだと褒めている。…これで、完璧に自信に繋がったかな。
取り損ねてしまったボールを持ち上げて染岡くんを見れば、凄く輝いて、嬉しそうな顔をしていた。
周りをサッカー部の皆が取り囲み、技の名前をつけようと盛り上がっているのを思わず微笑ましい気持ちになって皆から少し離れたゴールでその光景を見つめていた。…その時。

「…円堂。」

低く、落ち着いた声が直ぐ傍らから聞こえ、そちらの方に視線を向ける。そこには、何か決意を秘めたような瞳をしている豪炎寺くんが立っていた。
途端、ざわり、とざわめいて、静かになるサッカー部。一年生たちは期待を孕んだ瞳で彼を見つめ、二年生は緊張した面持ちで、染岡くんは敵意をむき出しにして彼を睨む。

少しだけ固まって悪くなった空気を物ともせずに、真っ直ぐわたしを見つめ、口を開いた。

「円堂、俺…やるよ。」
「!…豪炎寺くん…。」
「「「やったーー!」」」

彼の声はよく通るから、少し離れた位置に居た彼らにも聞こえたのだろう、嬉しそうな歓声が聞こえてきた。…でも、本当にいいのだろうか。

「…本当に、いいの?」

暗に妹さんの事を尋ねれば、彼はふっと微笑んで頷く。

「良いんだ。…その代わり、夕香に誓ったんだ。夕香が目覚めるまで、負けない、と…。」
「そっか…。それはわたしも重大責任だね。もし負けちゃったら、わたしも一緒に怒られなきゃいけなくなるもの。」

肩を竦めて見せると、彼はまた笑った。その笑顔が何故だか、彼の本来の笑顔に見えたから、安心して。笑顔でグローブを外した右手を差し出す。

「ようこそ、雷門中サッカー部へ!歓迎するよ、豪炎寺くん。」

彼は無言で差し出したわたしの手を握る。あまり力をいれないように気をつけているかのような、そんな握り方。そして、彼はもう一度穏やかに笑って見せた。

「…ああ、よろしく頼む。」

…さあ、尾刈斗中との試合まで、後ほんの僅か。





 


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