ランニングやアップを一郎太に任せ、わたしと染岡くんは河川敷のなだらかな坂に二人で腰掛ける。染岡くんは疲れたのか、寝転がってしまったけれど。
ユニフォーム汚れるよ、と言ったら、こんくらい別に、と返されてしまった。…まあ当たり前、か。

「焦る気持ちも分かるけど…あんまり無茶はしないでね。今、故障されたらどうしようもないんだから。」

元気付けようと思って冗談めかして笑って見せれば、彼は少々呆れ顔でお前にだけは言われたくない、と返してきた。そこまで無茶はしてないつもりなんだけど。

「…ね、染岡くんはこの間の試合、どう思った?」
「…どうって…。」
「わたしね、嬉しかったんだ。試合できることも勿論だし、ようやくサッカー部らしくなってきたって言うことも。」

やる気の無かったサッカー部。練習さえせず、ただ部室でたむろしているだけの、帰宅部と同じ環境にあった。…でも、この間の試合で、ようやくサッカー部らしく練習するようになりはじめた。
…ぼこぼこにされてしまったけど、そういう意味では帝国学園に感謝しなければならないのかもしれない。

「染岡くんは、どう思った?」
「…羨ましかったんだよ。」
「羨ましい…?…豪炎寺くん、が?」

わたしがそう告げたことに驚いたのか、彼は一瞬驚いたような顔をしたが、そのうちああと苦笑したように、何処と無く寂しげにそう呟く。

「…アイツ、出てきただけでオーラが違ってた。一年生がアイツを呼んでくれって言うのも…分かる気がするんだ。」

染岡くんは寝転んでいた体勢から起き上がって、膝を抱えるようにしつつ、そうぽつぽつと話し出す。…やっぱり、豪炎寺くんと自分の事、比べてたんだ。

「…それで、豪炎寺くんみたいになりたいって思ったの?」
「ああ。…ったく、円堂には何でもお見通しだな。」
「まさか、そんな事無いよ。染岡くん、分かりやすいんだもん。」

あまりにも染岡くんらしくない物言いに思わずくすり、と笑ってしまうと彼は悪かったな、とむくれてしまう。…何か、ようやく染岡くんらしくなってきた。
わたしは隣に並ぶように座っている染岡くんにじゃあ、と声をかける。

「完成させようよ、染岡くんのシュート。尾刈斗中との試合までに。」
「…お前な…口で言うほど簡単じゃないんだぞ。」
「知ってるよ?…あのね、染岡くんは染岡くん。豪炎寺くんじゃないんだから。無理して豪炎寺くんになる必要なんて無いよ。」

同じFW、同じストライカーであったとしても、染岡くんと豪炎寺くんは別人。染岡くんが豪炎寺くんになりきることなんてできっこない。

「染岡くんは、自分のサッカーを信じて。自分だけのサッカー、自分だけの必殺技。…大丈夫、染岡くんなら出来るよ。わたしも付き合うから。」
「円堂…。」

呆気に取られたような顔をしていたが、やがて彼はよしっと言って立ち上がる。…よかった、これで完全にいつもの染岡くんに戻った。

「やってやろうじゃねぇか、俺だけのサッカー!」

行くぜ円堂!と言って駆け出していく彼に、思わず安堵の息を吐く。遠くで一郎太が微かに笑った気がした。



 


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