出会った時と同じ格好で驚いたような、此処に居るのを咎めているような、はたまたバツが悪そうな微妙な顔をして立っている豪炎寺くんがいた。
わたしも思わず気まずくなり、そっと彼の鋭い目線から逃れるように顔を僅かにそらす。
気まずい沈黙も僅か、直ぐに豪炎寺くんが病室の扉を開け。

「…入るか?」
「いいの…?」
「気になる。…そんな顔をしているぞ。」
「…。お邪魔します。」

僅かに逡巡するも、結局好奇心のほうが勝ってしまい、わたしは失礼を承知で豪炎寺くんの後に続いてその病室に踏み入った。
白い白い、何処と無く懐かしく、何処と無く忌み嫌う不気味なほどの白さを保つ病室には、小さな女の子が一人で眠っていた。

「…その子は…妹さん?」
「分かるのか?…そうだ、この子は俺の妹、夕香だ。」

その子のふんわりした髪の毛を撫でる彼は、吃驚するくらい優しくて、でも何処か悲哀を込めた瞳をしていて思わず言葉を失う。…こんな顔、初めて見る。

「何処か悪いの?」
「…身体的には異常は無い。ただ、意識が戻らないだけだ。」

深刻そうに告げる彼に何とも言えず、ただ黙って彼が話し出すのを待つ。彼はわたしにもう一つの椅子をすすめ…何が起こったのか、話してくれた。

彼は包み隠さず話してくれた。
夕香ちゃんに起こった事故の事、どうして木戸川から雷門へ来たかと言うこと。…どうして、サッカーをやめてしまったかということ。

「…夕香は、俺のせいでこんな目にあってしまったんだ。だから、俺は夕香が目覚めるまでサッカーをやめるって、そう誓ったんだ。」
「…そっか…そんな事が…。」

俯いたまま話す彼がとても疲れたように見えて、辛そうに見えて、わたしは思わず彼の頭に手を伸ばす。ふわり、と意外にも柔らかな髪質が手に触れるのを感じ、そのまま撫でた。

「…辛かったね。」
「…、…。」

わたしに撫でられるのを驚いたようにしていた彼だが、そのまま無言でその動作を繰り返していると、何処と無く安心したように目を細めて苦笑する。
そして暫くして、ありがとう、という小さな呟きと共にそっとわたしの手を頭から外した。わたしも素直に手を膝に戻すと、改めて夕香ちゃんを見つめる。

「…わたし、夕香ちゃんが羨ましい。」
「…何でだ?」
「だってこんなに思ってくれて、病院に顔を出してくれる家族…お兄ちゃんがいるんだもの。」

思い出すのは、あの病院の中。皆、優しかった。お医者さんも、看護婦さんも、同じ入院患者さんも。みんな、優しかった。…でも、やっぱり物足りなかった。
身寄りが無いから仕方ないと、少し大きくなったら頭では理解していた。でも、やっぱり家族が来てくれないのが、一番寂しくて辛かった。
けれど、夕香ちゃんは違う。家族がいて、お兄ちゃんがいて。こんなに大事にされているから。

「…夕香ちゃんは、別に豪炎寺くんがサッカーをやってても怒らないよ。」
「…。」
「むしろ…やっていない方が目が覚めたときに傷付くと思う。自分のせいで、って。…まあサッカーをやる、やらないは豪炎寺くんの事だから、もうこれ以上わたしが言えることじゃないんだけど。」

肩を竦めてわたしは立ち上がる。言えるだけの事は、もう言った。後は、彼が決めること。
ただ、部屋を出て行く前に、一言だけ。

「…夕香ちゃん、早く目が覚めるといいね。」



 


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