鉄塔の広場から見る景色には、ちょっとだけ不思議な力があるんじゃないかって昔から思わせられる。…ここから見える綺麗な景色を見ていると、どんなに不安になっても大丈夫なんじゃないかって思わせてくれるし、まとまらない考えも、ここにくるとすうっとまとまってくれたりするから。
暫くの間、特訓を禁じられてしまったからタイヤにそっと触れて、それからベンチに浅く腰掛けて夕日が沈んでいく様子を静かに眺めつつ、思いを巡らせる。

その日の特訓は、はっきり言って全然特訓という感じじゃなかった。染岡くんは荒れる、一年生は怯えてしまう、その他の二年生も何となく不安げ。
何よりも染岡くんのラフプレーが皆の邪魔をしてしまって、ボールを蹴るどころの話じゃない。
…不安だった、またサッカー部が元のやる気の無い部活動になってしまいそうで。

「…やっぱり、ここに居たな。」
「一郎太…。よく分かったね、ここにいるって。」
「昔っから円堂はここが好きだったろ。お母さんと喧嘩したり、不安になったりしたときはよくここに来て、一人で景色を眺めてたりしたからな。」
「…そうだね。で、わたしがあんまり遅いと、必ず一郎太が今みたいに迎えに来てくれたよね。」

後ろから聞こえてきた声にそう返せば、そうだったな、と苦笑気味ながらも懐かしげに笑う一郎太がいた。そのまま自然な流れで彼はわたしの隣に座る。昔よりも少し、彼の方の肩の位置が高くなっていた。

「…染岡、焦ってるんだろうな。アイツの気持ち、分かるよ。豪炎寺はやっぱり凄かった。あんなのを見せ付けられたら…俺ももっと頑張らなきゃって思うからさ。」
「…ん、そうだね。皆の気持ちは分かってるつもり。彼は…豪炎寺くんは凄い人だよ。居るだけで威圧されてしまいそうだったから。…でも、だからって彼が部員になってくれたからっていつでも勝てるわけじゃないと思うの。」

ぽつぽつと今思うところを正直に告げる。彼は何も言わず、黙って聞いてくれていた。

「サッカーは11人でやる競技だよ。きっと今の皆はそれを忘れてる。…ううん、忘れてしまうくらい、きっと不安なんだね。」

突然決まった帝国との試合。歴然とする力差。叩きつけられて、あやうく敗者になりかけて。今回もそうなるのではないか、と皆心の何処かで不安に思うところはそれぞれあるはずだ。…けど、そのままずるずると誰かに縋って助けを求めていたら、いつまでたっても先には進めない。

「わたしね、最初は豪炎寺くんも入ってくれたらなって思ってたんだよ。…でもね、もう最近は諦めてるの。…彼自身は入る気がないみたいだし、強制する権利はわたしには無い。…それにね、今居る皆で力を合わせて、高みに上っていけたらなって、思うの。」

段々と星空に変わっていく夕焼けを眺めて、そう宣言した。一郎太は何も言わずにただそうか、とだけ頷いてわたしが帰ろうと言い出すまで、ずっと傍にいてくれた。

***

一郎太に今居るメンバーで強くなりたい、と告げたその次の日。
わたしは身体の調子を見てもらえ、とお母さんに言われて仕方なく稲妻総合病院へ行くこととなった。もう身体のほうは全然問題ないのだけれど、お母さんが怖いから仕方ない。…まあ、心配させてしまったし…従っておくべきかな…。

病院での用事は直ぐに済んでしまった。特訓の許可も下りたから、これで心置きなくサッカーに専念できる。
ちょっとだけ弾んだ気持ちで廊下を歩いていると、ふと入院患者が居る部屋のネームプレートが目に入って、僅かに驚く。
“豪炎寺”。ネームプレートにはそう書いてあった。

(…豪炎寺くん、何処か悪いのかな…?)

その時、何かに足を止められたかのようにその場を動けなくなったわたしに、聞き覚えのある低い声が聞こえる。

「…円堂?」
「え…あ、豪炎寺くん…。」




 


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