一触即発、そんな雰囲気の中再開される試合。帝国からのキックオフ、再びデスゾーンが放たれようとした、その瞬間。

「…此処は、任せた。」

優しい声が聞こえ、豪炎寺くんは一気にゴール付近まで上がってゆく。

「…任せられちゃった…。」

そんなこと言っている場合じゃないって分かってるし、現に目の前には既に三角形のフォーメーションになってくるくる回ってる三人がいて、デスゾーンは今にも放たれそうだったけれど。でも。

…任せた、なんて言われたの、初めて。

少しだけ、胸の辺りが暖かくなった、その瞬間。不意にわたしの脳裏にお爺ちゃんの必殺技が思い浮かんだ。―ゴット、ハンド…。
無意識のうちに右手を空へ翳すと、そこに大きな金色の手が現れる。そして、そのまま飛んでくるボールへそのてを降ろすと…。

「何ッ…!」
「とめ、た…。」

あれほどに恐怖するようなボールが、いとも簡単に止めることが出来た。…流石は、お爺ちゃんの必殺技、だね。

―それからの事、実を言うとあんまり覚えて無い。

豪炎寺くんがファイアトルネードという炎のシュートでゴールを破ったこと、帝国が退いて、自動的にこちらの勝利になったこと、…そして、廃部は免れたと言うこと。
一気に様々な情報が目の前を交差して…わたしの目の前は真っ暗になってしまった。
遠くから皆の叫び声が聞こえたのと同時に、わたしは倒れてしまった。

***

「…ん…。」

目が覚めたときは見慣れたわたしの部屋の天井。…わたしの部屋?
意識が戻ってきて、それによる驚きで思いっきり寝かされていた体勢を起こした。…瞬間走る激痛に思わず声にならない悲鳴を上げる。…ものすっごく痛い。

「…起きたのか。」
「…っ…豪炎寺くん…。何で此処に…。」

思わずうめくように言うと、眉尻を下げて困ったような顔をした彼がゆっくりと頭を撫でてきた。思わず何も言えずに黙り込むと、ゆっくり自分の服装を確認する。…流石にユニフォーム、じゃない…って、寝巻き!?
え、え…いつ着替えたんだろう?

「…お前のお母さんが。意識が無かったから風呂に入れさせて、着替えさせていた。…見てないからな。」
「ああ、うん、お母さんが…。」

あはは…どうしよう、ちょっと今日怖すぎてお母さんと話できないかも。
思わず遠い目になりかけているわたしを豪炎寺くんは不思議そうに見つめ、そして本題を思い出したかのように切り出した。

「…今日は、俺のせいでお前たちがあんな風にされてしまったから、フィールドに出て行っただけだ。サッカーは、…サッカー部には、入らない。それを伝えに来た。」
「…そっか。…残念、入ってくれたら嬉しかったんだけど。」

あまりにも彼が申し訳なさそうに言うものだから、わたしは思わず冗談めかして肩をすくめて見せた。そして笑ってみせる。

「…ありがと。あなたのお陰でサッカー部、廃部にならずにすんだ。…本当に、感謝してる。」
「…そうか。」

苦笑しあった後、彼はわたしのベッドの傍から立ち上がる。そしてもう一度わたしの頭を撫でて微笑んだ。

「…これから、友達としてよろしく頼む。あとそれと、安静にしておけ。」
「…ん。ありがと。」

あくまでも優しく頭を撫でてくる感覚に安堵を覚えて、わたしはもう一度眠りに落ちた。…次に目覚めたときに待っていたのは、優しい豪炎寺くんじゃなくて、鬼みたいにかんかんに怒ったお母さんと、苦笑しつつもわたしを針の筵でくるむように説教するお父さんだったなんてこと、まだこのときは知らないままで。





 


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