「風丸!」

染岡くんの声が遠くから聞こえてくるのを聞きながら、わたしは目の前で一郎太が倒れてゆく様をスローモーションとして捕らえて眺めるしか出来なかった。
彼が低くうめく様な声を上げた瞬間、わたしの固まっていた脳内が再び動き出す。

「一郎太…!何で…。」
「ごめん、円堂…とめきれ、無かった…。」

ハッとしてスコアボードを見ると、既に得点差は8-0。…何てこと。
何とか重い身体を動かして、一郎太を支えて起こすと、少しゴールよりも離れた位置に止めおく。
本当はベンチに下がらせてあげたかった。…けれど、本人がそれを非常に嫌がって、叶わなかった。だから、せめて巻き込まれないようにラインぎりぎりのあたりまで連れて行く。

「…絶対に、守るから。後は、任せてね。」

少し苦しそうにしてる一郎太にそう囁くと、彼も微かに笑ってトン、と小さく肩を叩いてくれた。…小さな頃から彼がわたしにしてくれる、言葉の無い励まし方。
それに少しだけ心が落ち着いたのを感じ、次いで得意げな顔をしている帝国陣を睨む。
…確かに、彼らは強い。でも、こんなの間違ってる。サッカーは楽しむものなのであって、人を傷付けるようなものじゃない。

…彼らの点を、止めなければ。
熱に浮かされたかのようにわたしの思考はばらばらとしてまとまらないまま、それだけが頭の中で強く巡る。
ほとんど無意識のうちにゴールの前に戻り、もう一度打たれたシュートを止めようとする。…でも、所詮わたしは手負い。幾度と無くボールをぶつけられた身体はもう思うようには動いてくれず、更に追加点を許してしまった。

そして、視界の端で目金くんが怯えたまま、逃げ出したのを捕らえた。…無理も、無いか…。
10人になってしまったフィールド、得点差は10-0。
思わず絶望的な気分になってしまった、その時だった。

思わず足場がおぼつかなくなり、傾いだわたしの身体が、誰かによって支えられる。遠くで聞こえるように感じるのは、きっと帝国の人達のざわめき。
…思いのほか近くで、声が聞こえた。この声、は。

「…大丈夫か?」

何処か優しさと心配を孕んだ声が聞こえる。…豪炎寺くん、だ。やっと来てくれたんだ。

「…だいじょぶく、ない。けど、大丈夫。」
「どっちなんだか分からないな。」
「…待ってたんだよ、これでも一応。」

少しだけ頬を膨らませてみれば、彼は苦笑して悪かった、と言ってわたしの頭を撫でた。その心地よさと壊れ物を扱うような待遇に、目を細めてそれを感受する。…とても心地よくて、安心させてくれるような手だった。

冬海先生が何か言って、鬼道くんがそれに答えている。少し問答があったようだが、何とか豪炎寺くんはこちらのチームに入れるらしい。…それもそうか、元々帝国の人たちは彼のデータを取るために試合を申し込んできたんだもん。

自分の足で立つと、豪炎寺くんは無言でわたしの少し前に立って鬼道くんを、帝国の人たちを鋭く睨みつけた。鬼道くんはそれを物ともせずにわたしに向けた笑みとは全然違う、にやりとした、でも敵意を隠さない雰囲気をかもし出していた。




 


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