…帝国の選手の動きは、やっぱりスピード、テクニック、パワー。全てが申し分なく、圧倒的な力の差を感じさせた。皆も何処と無く怯えた表情をしている。…もしかして、相手側の目的はわたし達の闘争心を削ることなのかな。

油断ならない、そう俯いて唇を噛んだ瞬間、突然パチンと指を鳴らした音が聞こえ、直後何かがこちらに飛んでくるような音が聞こえてきて、思わず顔を上げるとボールが一直線に凄いスピードを伴ってわたしに向かって飛んできていた。
…挑発、のつもりかな?

周りの人が何か言うのも聞こえず、無意識のうちに右手を前に出していた。

バシイィィィッ!

「なっ…片手で止めて見せた、だと…!」
「…いった…。」

驚きの声が上がるのを聞きつつも思わず眉を顰め、呟く。…やっぱり、彼らは強い。侮れない。…でも、だからこそ闘ってみたい。

「おい円堂、大丈夫かよ!?」
「…大丈夫、一郎太。」

だいじょうぶだよ、と口の中でもう一度呟くと、わたしは燃え上がる闘争心に任せて目を細めた。…自分の今までやってきたことを信じて、頑張ればきっと大丈夫。

***

※鬼道視点。

…正直、とても驚いた。こちらにやってきて真っ直ぐに俺の顔を見ながら挨拶した相手チームのキャプテンは、何と女だったのだ。

俺たちの事など恐れもせずに、握手まで求めてきた彼女に、一瞬躊躇いを覚えつつ差し出された手を見る。その手は女子らしく傷一つ無い、白くほっそりとしたもので、どうも彼女のポジション、GKを感じさせるような手ではなかった。
GKとは源田のような体格の良い男子がやってこそのものだ。こんな、明らかに俺よりも小さく、頼りなさげな女子がやるポジションではない。それも、相手をするのが俺たちだということが彼女にとっての不幸に感じて、思わずその庇護欲をそそるような小さな手に手を伸ばした。

後ろの帝国陣が驚いたようにざわめくのを感じつつもそっと彼女の手を取り、握手というにはあまりにもゆるい力加減で包むように握る。…どうせ、後から俺は、俺たちは彼女をボロボロに叩き潰してしまうのだから、こんな事をしても無駄と言えば無駄だ。
けれど、それに対する申し訳なさが何故か俺の胸に広がり、今だけは、という気持ちの揺らぎが波紋のように生まれるのを感じた。

「…俺は帝国のキャプテン、鬼道有人だ。早速で悪いが、初めてのフィールドだから、俺たちにウォーミングアップをさせてくれると嬉しいんだが。」

広がった苦いものを嚥下するように、罪悪感を振り払うように手を放し、尚もこちらを見つめる彼女にそう言うと彼女は快諾してくれた。

思わずグラリと本来の目的も揺らいでしまいそうになりながらもメンバーに指示を出し、いつもの通りシュミレーションを始めた。
ちらりと雷門を見やると、動揺し怯えた顔の中に一人だけ、彼女だけが平然とこちらを見つめていた。

その様子に何故か安堵しつつもぱちん、と指を鳴らした。辺見がすぐに彼女に向かってボールを蹴る。
普通なら止めきれない、その速度。流石辺見と言うべきか、女子にも容赦無かった。
―止められない。
帝国の誰もがそう思った、その瞬間。

バシイィィィッ!!

「なっ…片手で止めて見せた、だと…!」

彼女はほんの一瞬で片手をかざし、そのまま止めて見せたのだ。
辺見をはじめ帝国のメンバーが驚きの声を上げた。
彼女もまた小さくいった、と声を漏らしていたが、直ぐにこちらを見て目を細めた。
その茶色の虹彩が輝く瞳を見て肌が粟立つのを感じる。

…久しぶりに、楽しめそうだ。



 


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