きっと彼―豪炎寺くんの噂を聞いたんだ。
彼が雷門中に転校してきた事を知って、この学校に試合を申し込んだのだという考えに行き着いてしまった。

溜め息を堪えて近くの大きな木をちらりと見る。…さっきから髪の毛がちらちら見えているから、あそこにいるんだろう。
…ついさっき、音無さんにお願いして…10番、彼が木戸川で背負っていたであろう、エースナンバーのついたユニフォームをあの木の傍に置いてきてもらった。
この試合を見て、彼がどう思うかは判らない。でも、わたしを励ましてくれた豪炎寺くんなら、まだきっと…遅くない。

…そんな気がする。

「…来たぞ!帝国だ!」

その声にハッとして顔を上げる。
目の前には大きな、それこそ建物ほどの大きさがあるバス…と呼べるのかどうかよく分からない車が校門に止まっていて、丁度今、その扉が開かれた瞬間だった。

(…何かまた変わった人がいるような…?)

ずらりと帝国の生徒たちが車の扉から敷かれたレッドカーペットの両脇を固めるように並び、…そしてまたこう言っては失礼かもしれないが…変わった格好をした人たちが降りてくるのが見えた。

先頭に立っている男の子はドレッドにゴーグルにマントを着けている。…うん、何か悪いけど変な人だ。見た目で色々と誤解されそうな人なんだろうな、あの人。

随分と失礼なことを考えつつふと上を見上げるとバスの上に椅子が生えて…いや出ていて、そこに一人の男の人が座っていた。
何処か不思議と気になって、じっと見つめていると、あちらもこちらに気付いたのか視線を向けてきた…気がした。

「…!」

その瞬間、背筋に冷たいものが降りた気がして思わず視線をずらす。何か嫌な…本能的な何かがわたしに何かの警告を鳴らした。
―あの人は、よくない人。嫌な人。
関わらない方が、絶対にいい。

急いでバスの上の人から目をそらすと、逆に何か話し込んでいる帝国のメンバーが目に入って思わず我に返った。…挨拶、しなきゃ。
あまり良い噂の無い自分より大きな、しかも知らない男子ばっかりのメンバーに近づくのは少し怖いけれど、ゆっくりと落ち着いて歩み寄る。

「こんにちは。この度は試合の申し込み、有難うございました。わたしは雷門中学校サッカー部キャプテン、円堂紗玖夜。今日はよろしくお願いします。」

彼らのキャプテンと思われるドレッドの男の子にしっかり視線を向け、すっとグローブをはずした右手を差し出す。
相手の男の子は一瞬躊躇した感じはしたが、やや間を置いてわたしの右手をゆっくりと握って握手する。…否、握手、と言うほど手を握るわけでもなく、そっと包まれるような感覚の触れ方だったけれど。

途端帝国側からざわめきがもれ、一瞬にしてわたしに視線が集まる。…何だろう、やっぱり女の子のキャプテンって珍しいのかな?

「…俺は帝国のキャプテン、鬼道有人だ。早速で悪いが、初めてのフィールドだから、俺たちにウォーミングアップをさせてくれると嬉しいんだが。」
「え?あ、ええ、どうぞ。準備が整ったら、言ってくださいね。」

鬼道くんの申し出に答えると、わたしはすっとベンチ側に下がり、帝国の動きを伺うことに徹した。



 


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