「ッ…。」

本日何度目か、タイヤに吹っ飛ばされる。
何時もはタイヤを背負ってやっているのをはずしたせいか、自分の体重で振りこのようにしているタイヤの重量を思うほど支えられず、何度も吹っ飛ばされた。
…これだから自分の太れない体質が嫌になる。食べても食べても筋肉どころか脂肪さえつきそうにない。

やっぱり、帝国学園と言う位なんだから、それなりに強いシュートを打ってくるだろう。…地道に訓練するしかないかな、やっぱり。

「……っ!」

声も出せず、またタイヤに吹っ飛ばされる。
大分遠くまでふっとばされて、尻餅をついてしまう。何かもう、お尻の辺りがひりひりする。皮が剥けたのかもしれない。
思わず溜め息を吐きかけた。…時。

「無茶苦茶だな、その特訓。」
「一郎太…。」

苦笑している一郎太がいつの間にか手を差し伸べてくれていた。その手に捕まると、ひょいっと軽々とわたしを立ち上がらせ、次いで綺麗な眉を顰めた。

「お前…何かまた痩せてないか?そんな体重でよくこんな特訓続けられるな。いつか本当に車道にぶっ飛ばされるぞ。」
「それは無いよ。だっていつもタイヤ背負ってやってるし。…どうしてここに?」

何だか次にもっと食えだとかやたらとダイエットしちゃいけないぞとか、お母さんみたいな説教がきそうな気がしてさり気なく話題をずらす。…お母さんに言われるならまだしも一郎太に言われると逆らえないから、一郎太の説教は苦手だ。

「ああ…お前、本気で帝国学園に勝つ気で居るのか?」
「そうだよ?…皆笑うかもしれないけどね。でも、勝ちたいって思って努力したら、きっと叶うって信じてる。だから、勝てるように今からでも練習するの。…やらなきゃ、きっと後悔すると思うから。」

一郎太の確認とも、疑問とも取れる質問に頷きつつもそう返す。次いで浮かんでくるのは、前世とも呼べるあの病院の中の“わたし”。
もうわたしは、あのときの不自由なわたしじゃない。動けるし、やりたいことも出来る。だから前世できなかった分、精一杯やれることをやりたい。それが、わたしの思いだから。

「…そっか。そうこなくっちゃな!お前のその気合、乗った!」
「…へ?」

突如あの重苦しい雰囲気を取り払い、一郎太がわたしに手を差し出す。思わず間抜けな声を出してしまったわたしを笑いつつ、彼は続ける。

「元々、助っ人でもいいって言われた時点で何となくは決まってはいたんだけどな…お前の今の答え聞いて、決めたよ。…で、お前らはどうするんだ?」
「え、お前らって…。」

一郎太が向けた視線の先を辿ると、そこには。

「え、皆…!?」

サッカー部の部員全員がそこに集まっていた。…あれ、何時からいたんだろう。わたしぜんっぜん気付かなかったんだけど。

「…お前の言うとおりだよな、円堂。勝とうと思わなきゃ、勝てるモンも勝てねえよな。やろうぜ、円堂!」
「キャプテン、俺たちも特訓します!」
「皆…!」

あの練習を全くしなかったサッカー部が、練習…!?思わず目から涙が出そうになった。
…でも、きっと大丈夫。きっとこれからがわたしたちの始まりなんだと思う。

「…よし皆!明日から特訓だよー!!」
「「「「おーーー!!!」」」」

暗い鉄塔広場には、熱い雄たけびが響き渡っていた。
帝国との試合まで、後4日。




 


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