「ふう…。」
疲れた。どうしようもなく疲れた。
一郎太のところに部活勧誘をしに行った後、目金くんという男の子に捕まって妙な条件を出されたり、新聞部の音無さんに捕まって散々インタビューという名のストーカーをされたし…。
そんなこんなで何時も行く鉄塔広場への道のりを歩く足は少し重く、溜め息を連発せざるを得ない気分だった。
赤く射す夕日を受けながら鉄塔広場にたどり着くと、そこには既に先客が居た。
「…あれ。」
「…お前か。よく出会うな。」
「ホントにね、豪炎寺くん。」
…言わずもがな、豪炎寺くん。本当によく出会うなぁ。
「ここの眺め…素敵でしょう?稲妻町が全部見渡せて、景色もいいし。」
「そうだな…。凄くいいところだと思うよ。」
「良かった!昔から、ここはわたしの大好きな場所なの。明け方に見える景色も、お昼に見える景色も、夜に見える星空も。ここで見ると何だか全然違う気がするの。」
お気に入りの場所を褒められて、少し嬉しくなったわたしはちょっとはしゃいだような声で話す。すこしだけ目元を和ませた彼は、ふと思い立ったようにわたしに尋ねた。
「…ところで、ここに何をしにきたんだ?」
次の瞬間、思わず固まってしまう。…サッカーの練習しにきたんだけど…。豪炎寺くんにサッカーの話するなって…。でも勧誘じゃなければいいのかな。
「…あの、サッカーの練習をしにきたの…。」
「…そうか。」
「豪炎寺くんも聞いているでしょう?わたしたち帝国と試合する事になったの。負けてしまったら廃部だし…無駄かもしれないけど、やっぱりやれることはやっておこうと思って。」
「…そうだな。諦めてしまうより、無駄でもやることをやっていたほうがいい。…じゃあ、俺はもう行く。…また明日。」
ひらり、と華麗な動きで柵を乗り越えて綺麗に着地して、彼は歩いていった。
ためらいがちにサッカーの事を口に出せば、彼は意外にもあまり感情を動かさなかった。ただ静かな声で背中を押すような言葉を言ってくれる。
そして、その声の中には、わたしの気のせいだろうか、何処と無く羨望を秘めた響きを孕んでいた様な気がしたのだ。
「…本当は…、サッカー、やりたいんじゃないのかな…。」
寂しげに、頼りなく歩いてゆく豪炎寺くんの後ろ姿に潜む影が、何となく気になりつつも、けれど踏み込むのを躊躇われ、わたしは何ともいえない気持ちを抱きながらその後姿を見送った。
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