女の子って、つくづく面倒な生き物だと思う。将来子供を産むためにある程度の体の成長が認められたら、月に一回の単位で月経があるのだから。月経中は出血により貧血になりやすくなるし、体のだるさや不調が出てきてしまって中々フルパワーで練習出来ないのだ。加えてわたしの場合、月経の最初の日に激しい痛みを覚えることが多々ある。病院から処方される薬を飲まなければ、動くのも難しいと言うほどに痛んでしまう。
言ってみれば練習出来るか出来ないかの瀬戸際な訳である。…うう、男の子がうらやましい。

「…円堂?」
「え?…あ、鬼道くん!」

薬を貰い、一安心していたら聞き慣れた声音がわたしの名を呼ぶのを聞いて、そちらを振り返る。そこには若干驚いたような顔をした鬼道くんがいた。

「どうしたの鬼道くん、具合でも悪くなった?」
「いや…源田達の見舞いでな」
「あ…」

…そうだ、まだ帝国の人達は世宇子との試合の後入院しているんだった。寂しげな彼から聞いてはいけないことを言わしてしまったことに罪悪感を覚える。

「…ごめんね、無神経だった…」
「…お前がそんな顔をする必要は無い、大丈夫だ。…ところで何故ここに?何処か怪我でもしたのか?」
「ううん…生理痛の痛み止の薬を貰いに来たの」
「…男の前でみだりに生理とか言わないことを薦めるぞ。…酷いのか?」
「?…うん、これが無いと動けないくらい痛いから…」

鬼道くんが少し赤面しつつ、ひとつ咳払いして僅かに顔をそむけた。それを疑問に思いながらも処方された薬をぷらん、とぶら下げて見せる。

「…俺はもう帰るが…もし良ければお前も会っていってやってくれ。…2人とも…特に源田が心配していた」
「…ん、じゃあ2人に会って行こうかな。…元気出してね鬼道くん」
「…ああ。…じゃあ、また明日な」

そっと背を向けて去ってゆく彼の背中を見送る。…無神経な事、聞いちゃったかな。少しだけ寂しそうな背中に、申し訳なく思いながらわたしも教えられた通りの道筋を頼って源田くんと佐久間くんの病室に向かった。

***

「まさか君が来てくれるとはな。…元気そうで何よりだ」
「あ、ううん…あの、久しぶり」
「ああ。…あ、その辺にかけてくれ」

優しげに笑う源田くんは相変わらずの様子だった。つんと鼻につく病院の臭いに少しだけ昔―と言ってももう、薄れ掛けてしまった昔の記憶だけれど―それを思い出して、何処と無く寂しい気持ちを覚える。…まあ、わたしにはもう、あんな風に寂しい想いをすることも無いのだけれど。

「…ええと…怪我の具合、どう?…佐久間くんは?」
「ああ、もう大丈夫だ。リハビリを続けてれば治るさ。…佐久間は…少し疲れてしまったみたいだからな…すまない、君が来た事は伝えておくよ」

苦笑気味にそう返されて、思わず源田くんの隣にある白い天蓋で覆われたベッドを見る。…静だった。とても。向こう側で佐久間くんは眠っているのだろうか。…そう考えるだけで、僅かな恐怖を抱く。…わたしが相手にしようとしているのは、こんな酷い事でも平気で出来る人たちなんだという事を改めて再確認してしまった。…でも、それと同時に怒りさえも覚える。
わたしの大好きなサッカーを、こんな風に凶器に代えてしまう人たちに対して。一緒にサッカーを楽しむ相手であったはずの帝国の人たちにこんな事をしたことに対して。…わたしが怯えている場合では無いのだ。

「…うん。佐久間くんに“頑張れ”って伝えといて。“また一緒にサッカーしようね”って…」

無理にでも笑顔を作って源田くんにそう伝えれば、彼は優しく微笑んで頷いてくれた。その笑顔に後押しを受けて、わたしはまた想いを一つ、背負うのだ。…絶対に、世宇子中を倒さなければ。



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