「お母さん、今日ね、友達が家に来るの!だからご飯多目に作ってくれないかなあ?」
「友達?珍しいわね、紗玖夜が友達をうちに呼ぶなんて…風丸くんでも来るの?」

帰り道、もっと話がしたいから、と言うことで一之瀬くんを家に呼んだのをお母さんに話すと、不思議そうに首をかしげられた。確かにわたしはあんまり人を家に呼ばないし、遊ぶなら大体わたしが相手の家に行くことの方が多い。特に一郎太とか秋ちゃんとか。

「一郎太も来るけど…サッカー部がほとんど来るんじゃないかなあ…」
「…それはまた凄い団体さんね…まあ良いわ、たまにしかないしね」
「やった!ありがとうお母さん!じゃあ、わたし今からちょっと練習に行ってきます!」

事情を話したらお母さんも納得してくれたから、取り敢えずご飯の心配はしなくて良くなった。皆よく食べるからなあ…。あんなに締まった体のどこに吸収されるんだろうか。
一之瀬くんたちが来るのはまだまだ先だから、いつもの通り鉄塔広場で特訓しようと玄関で再び靴に履き替えた。

「あ…あと紗玖夜、あなたついでに病院にも寄りなさい。薬が切れかけてたわよ」
「え、ホント?…分かった、帰りに必ず寄るね!じゃあ行ってきます!」

背中にお母さんの声を受けながら鞄とサッカーボールを抱えて家を出る。…さて、取り敢えず今日殆ど出来なかったキーパーの練習でもしようかな。

***

綺麗な橙色の光に溢れる鉄塔広場は、いつもの通りひとっこ1人いない、…わけでも無く。珍しく先客がいた。

「…夏未ちゃん?どうしてここに…」
「あら…紗玖夜。久しぶりね。…ここに来たのは偶然よ。病室から見えてね、何となく来てみたの」

数日ぶりに顔を合わせた夏未ちゃん。お父さんの看病疲れが出ているのか、その顔は白を通り越して青ざめているように見えた。そうっと近寄って頬に手を当ててみたら、少しだけ熱い。…具合が悪いのかな。

「大丈夫?夏未ちゃん、ちょっと熱いよ?」
「…少し疲れただけよ、大丈夫、貴女が心配するほどではないわ」

苦笑して見せる夏未ちゃんは気丈に振る舞って見せているけれど、お父さんの具合は良くなってないのだろう、元気が無かった。そんな彼女を見ていられなくて、少しでも元気になってほしくて、その白い手を掴む。

「ね、ちょっとこっちに来て!」
「な、何?」
「良いから!!良いもの、見せてあげる!」

戸惑う夏未ちゃんの手を引っ張る。鉄塔広場の中でも一番のわたしの“お気に入り”。

「まあ…」
「ここからの眺め、素敵でしょう?あんまり綺麗だから、見ていたら悩みなんて全部吹っ飛んじゃうの。何か、どうでもいいやって」

赤茶色の瞳を輝かせて景色を眺める夏未ちゃんの隣に並んで稲妻町を見下ろす。夕日に輝く町並みがいつも以上にその広大な景色を彩っていた。

「…1人じゃないよ、夏未ちゃんは」
「え…?」
「夏未ちゃんにはわたし達が付いてる。…だからね、辛いこととか、悲しいことがあっても、1人で抱え込まないで。わたし達を頼って欲しいな。…それに」
「それに?」
「わたし、夏未ちゃんの笑ってる顔が好きなの!」

一気にそこまで言って彼女の方に顔を向ければ、きょとんとした表情をしていた。けれどすぐに仄かな笑みへとすり変わるのを見て、内心ほっとする。…やっぱり、夏未ちゃんはこうでなくては。

「…ありがとう、紗玖夜。貴女が、その…と、友達で良かったわ」
「うん、わたしも夏未ちゃんと友達になれてすごく良かった!」

はにかみながらそう告げる夏未ちゃんにほっこりとした気持ちで答えながら、彼女の気持ちが完全に落ち着くまでずっと夕日を眺めながら話をしていた。…あんまり練習は出来なかったけれど…まあこういうのもありかなって、そう思いながら。



 


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -