しかし、やはり全国大会。しかも無敵の守備を誇る千羽山のディフェンスを前に、わたし達は一点も追加できず、そのまま0-1で前半を終了してしまった。…あのかごめかごめという技と、無限の壁を突破しないと、得点には繋がらない…負けてしまう。
…といか、あの千羽山のGK、何か下品だなあ。人様の打ったシュートを牛の…牛のアレだなんて…失礼にも程があると思うんだけれど。
それにしても、やっぱり何だかシュートが決まらないせいか、皆の士気が落ちているような気がする。…パスが繋がるようになっただけでも前半はよかったと思うんだけど。

「皆、元気出して!ほら、パスは繋がるようになったんだし、後は後半戦で2点、取り戻せばちゃんと勝てるから!…ね、鬼道くん、そうだよね?」
「…ああ。…円堂、すまないがフォーメーションを変えたいんだが」

良いか?と言わんばかりの目線がこちらに向けられ、一瞬面食らってしまう。…フォーメーションの事とかはきっとわたしよりも鬼道くんの方が詳しいだろうから、勝手に指示を出してくれても全然構わないのに。思わず首を傾げつつ、別に変えてもいいよ?と返すと安心したように眉尻を下げられた。…え、何、別にちょっと変えたぐらいじゃ怒んないのに。

「後半は、染岡の1トップで行こう…無限の壁を崩す為に、囮としてディフェンダー同士を出来るだけ引き離すんだ」
「…あ…そっか、無限の壁は3人技だもんね。1人でも欠けてたら出せない、それが弱点、なのかな?」
「ああ、その通りだ」

なるほど、確かに一理ある。攻撃陣が1人減るのは少し心もとないけれど、試してみる価値がありそうだ。その鬼道くんの意見に皆が納得していた。…が、しかし、その時1人だけ、その意見に反対する人がいた。

「ちょっと待てよ円堂!豪炎寺を下げるなんて、そんなの俺たちのサッカーじゃ無いだろ!?」
「…半田くん…?」

眉尻を吊り上げてそれに反対したのは、普段どちらかと言えば和を和ませようとしてくれる筈の半田くんだった。彼にしては、珍しく激昂した様子でわたしに食って掛かって来る。思わずその勢いにビクリ、と肩を震わせて一歩下がってしまうほどに、半田くんの怒りっぷりは凄まじかった。…普段の穏やかな彼は何処へいったのだろうか?

「染岡と豪炎寺の2トップ!これで今までやってきた!…これが俺たちのサッカーだ、そうだろ、円堂!」
「お、おい半田!」
「え、えっと…半田くん、落ち着いて…」

勢いあまったからか、わたしの肩を強く掴んでわたしを正面から睨む半田くん。そしてそれを慌てて静止しようとする一郎太とわたし。後ろで春奈ちゃんや秋ちゃんが息を飲む声が聞こえてきた。…と思ったら、鬼道くんの落ち着いた声がそこに響く。

「…まだわかってないようだな。良いか、ここはフットボールフロンティア全国大会だ。全国だぞ。お前たちは既に全国にまで上り詰めてきたんだ、もうお仲間サッカーは通用しない!」
「今までお仲間サッカーって言うのを続けてきた覚えは無いけど…でも、この状況を打開できるなら、鬼道くんの案を受け入れても良いと思ったの。…ね、半田くん、やってみようよ」

肩を強く掴まれていたのを一郎太が引き剥がしてくれたお陰で精神的な圧迫も無くなり、何とか鬼道くんの言葉を次いで半田くんにそう言うと、彼はさっとわたしから目を離して、一言。

「…分かったよ」

まるで苦いものを全て嚥下した様なその表情に少しだけこれからの試合が不安になってしまった。…大丈夫、だよね?



 


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