悶々と悩み続けていたわたし達に、秋ちゃんが休憩しよう、と声をかけて来た。その声に従って秋ちゃんたちがいるベンチの方に足を向ければ、何か皆が集まっている。なんだろうと思って秋ちゃんの隣に行ったら、黄色いものがトレーの中にあるのが見えた。

「…レモンの蜂蜜漬け?誰が作ったの?」
「夏未さんだよ。…ね、夏未さん?」
「ひ、暇だったから作ったのよ。私がここまでしてあげるんだから、必ず勝ちなさいよ!」
「…うん。ありがと!頑張るね、夏未ちゃん!」

秋ちゃんの言葉に照れているのか、少々頬を赤く染めてふいっとそっぽを向く夏未ちゃんが可愛くて、秋ちゃんと顔を見合わせて笑ってしまった。それからひょい、とトレーの中からレモンを一切れつまむと、少しだけ口に含んでみる。柑橘系独特の香りと、蜂蜜の甘い香りと共に甘酸っぱい味が口の中に広がって、すっきりした気分になった。
初めて作ったにしては、とても上手く出来ていると思う。

「すごく美味しいよ、夏未ちゃん!また作ってね!」
「…気が向いたらね」

相変わらずわたしと目を合わせないままそう言う夏未ちゃん。…確かに夏未ちゃんがここまでしてくれたんだから、ちゃんと勝たなくちゃ。じゃないと怒られちゃうだろうしね。
もう一度秋ちゃんと顔を見合わせて笑うと、ぞろぞろとグラウンドに戻っていく皆の後に続いた。鉄壁と評される無敵のディフェンスを破る方法を、何としても見つけ出さなければ。

***

「…え?トライペガサス?」
「ああ。俺と一之瀬って奴と、もう1人の奴でやる技さ」
「今の紗玖夜ちゃん達だったら出来ると思うんだ」

あれから、やっぱりタイミングがかみ合わないまま練習を続けていたら、秋ちゃんと土門くんが一つの提案をしてきた。三人の必殺技で、土門くんや秋ちゃんがまだアメリカにいた頃に作ったらしい。

「ふうん…ね、一之瀬くんって前に秋ちゃんが言ってたもう1人の幼馴染だよね?どんな人なの?」
「俺達のサッカーチームをアメリカンリーグの優勝に導いた立役者さ。天才だったよ、あいつは。フィールドの魔術師って呼ばれてた」
「フィールドの魔術師…何かカッコいいね!ね、その人、今何処にいるの?会ってみたいなあ」
「ん?ああ、一之瀬は…あそこにいるよ」

土門くんが指差す方向。そこには青い空が広がっているだけ。…どういうことなんのだろう、と首を傾げて秋ちゃんを見ると、秋ちゃんが寂しそうに笑っていた。

「死んじまったのさ、あいつ」
「え…あ、ごめん…」

無神経な事を言ってしまった、と項垂れたら、土門くんと秋ちゃんが慌てたように口々に気にしてない、と言ってくれた。恐る恐る頭を上げたら、秋ちゃんがにっこり笑って言う。だからこそ、トライペガサスをやってみたらどうか、と。

「…じゃあ、やってみよっか!ねえ土門くん、やり方教えて!」
「おう。えーと…こうなって…」

がりがり、と土門くんが土の上に何かを描きはじめたのを覗き込んでいたら、豪炎寺くんがゆっくりとわたし達に気付かれないように離れていったのを感じた。横目でその姿を追っていたら、ゆっくりと校門から出て行くのが見えた。…何か、気が付いたことでもあるのだろうか?
そう思いつつ、わたしは知らないフリをして土門くんの説明に耳を傾け続けた。…豪炎寺くんの事だ、きっと何か考えがあるのだろう、そう思いながら。



 


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