「…初めはボールを蹴る事が楽しかったんだ。…だが、周りは俺に勝利を求めてきた。だから…影山が神様のように思えたよ」
「絶対的な、勝利を与えてくれるから?」

俯いて、悔しげに唇を噛んでそう呟く鬼道くんにそう聞けば、ああ、と吐息を漏らすように頷かれた。勝ち続ける事。口で言えばとても簡単そうに感じるけれど、実際はきっと物凄い努力を重ねた上にあるものだ。軽々しく求められないもののはず。…なのに、この人はずっとそんなものを求められ続けていたのだろうか。しがらみにがんじがらめにされて、サッカーを続けていたのだろうか?

そうっと俯いたままの茶色い髪に右手を伸ばして、ゆっくりと優しく頭を撫でる。彼の辛さや苦しさはわたしには想像もつかない。わたしは誰にも強要される事無く生きてきたから。けれど、少しでもその辛さを和らげてあげたいと思う。…お節介かもしれないけれど。

「円堂…?」
「…もう、大丈夫だよ」

勝手に唇から漏れる言葉。今頭の中にある事や、考えている事がすーっと体の内側から一つの気持ちになって流れ出てくるままに、わたしはずっと鬼道くんの頭を撫でながら呟いていく。

「大丈夫…鬼道くんは自分をちゃんと見つけられたでしょう?影山さんのサッカーから自分のサッカーを見つけられたのは、鬼道くんの自身の力なんだよ。…今は、まだまだ小さくて弱い力かもしれないけど、自分のサッカーを大事に守っていったら、育てていったら…いつか強くて大きい力になるよ、絶対」
「…今はまだ、小さくて弱い…」
「うん。だって、独立したばっかりなんだもんね。…ほら、鬼道くんがちゃんと元気にならないと、帝国の皆に笑われちゃうよ。鬼道くんは、帝国のキャプテンなんだから!」

最後にそう締めくくって、未だにぼんやりとしている様な鬼道くんに向き直れば、彼はいつもよりも優しげな笑顔でそうだな、と呟く。そして自分の頭に置いてあったわたしの右手をそうっと降ろし、両手で包み込んだ。そして、怪訝そうな顔をしているであろうわたしの目を真っ直ぐに見つめ返して、やはり優しい言葉を掛けてくれた。

「…ありがとう。…やっぱり、お前に来てもらって良かった。もう少し…考えてみるよ、自分の事や、これからの事を」
「うん。力になれて良かった!…また何かあったら…遠慮せずに言ってね。大した力にはなれないかもしれないけど…」

苦笑しつつ肩を竦めると、鬼道くんは今度こそ楽しげに肩を震わせて笑った。

…でも、鬼道くん達を惨敗させたという中学校。…やっぱり、気になるなあ…。



 


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