…けれど、運悪くコントロールが逸れたボールは勢いよくベンチの近くにいた女の子へ向かっていった。
女の子は突然の恐怖に固まって動けなくなってしまっている。

「…危ないっ!!」

慌てて立ち上がり、駆け寄ろうとした、その瞬間。

突然黒い影が上から現れたかと思うと、女の子に向かっていたボールを大柄の安西、という男に蹴り返した。
ズバン、という凄まじく痛そうな音と共にボールは安西の顔に埋まり、彼を気絶させるまでに至る。
その突然の光景に、わたしは半ば呆然として逃げていく小柄な男を目で追いかけてしまう。そして、女の子の御礼を言う声ではっとしてその子に駆け寄った。

「大丈夫っ!?怪我は無い!?」
「あ、うん。大丈夫だよお姉ちゃん!わたし、何とも無いから!」

にこっと笑った女の子に安堵して溜め息を吐く。…心臓に悪い。
助けてくれた人に御礼を言おうとふ、と顔を上げれば、何か懐かしげなものを見るような瞳でこちらを見ている男の子と目が合った。
白くて綺麗な髪の毛を立てて、橙色のパーカーを羽織った男の子に、わたしは慌てて頭を下げた。

「あのっ、ありがとうございましたっ!」
「いや…気にしなくていい。それより、あんたは大丈夫か?」

落ち着いた声音の男の子の声にわたしは思わず顔を上げてしまう。

「え?わたし?」
「右肘。…血が出てるぞ。」
「え、あ…!」

慌てて自分の右肘を見てみると、確かに血が滲んでいる。恐らくさっき突き飛ばされた時に酷く擦ってしまったのだろう。
ユニフォームから滲んでしまうということは、相当酷く擦ったらしい、袖をまくればあまり見たくない出血量の多さに思わずひゅっと息を漏らしてしまった。

…ああ、またお母さんと一郎太に怒られる。傷を作るなってあれだけ言われたのに。

ちょっとがっくりした気分になって溜め息を吐くと、微かに右肘に温もりを感じる。驚いて目を上げると、男の子が自分のハンカチでわたしの傷を縛っている最中だった。

「ちょっ…大丈夫です、気にしないで…!」
「じっとしてろ。」
「う…。」

断ろうとしたけれど、彼の強い声に押し負けて黙ってしまう。何か、逆らえないオーラを感じた。

「…よし、これで良い。」
「あの…ごめんなさい、こんな…。」
「気にするな、好きでやったことだ。…きちんと消毒しろよ。」
「あ、はい…。」

何かお母さんみたいなことを言われて思わずもう一度頭を下げる。
そしてふとさっきの彼のシュートを思い出して、顔を上げた。

「あの、さっきのシュート…凄かった。あなたもサッカーやるの?」

少し興奮気味な上ずった声になったことを自覚しながら、わたしはわくわくしてそう問うと、先ほどの表情とは一転、彼は陰鬱な顔になってわたしに背を向けると、一言。

「…もう、サッカーはやらないって決めたんだ。」

そう言って、悲しげな雰囲気を出しながら去っていった彼を、わたしは呆然と見送るほか無かった。
…しかし、その時出会った“彼”と、また近いうちに会うなんて、このときのわたしに予測など出来るはずも無かった。




 


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