…そして、何がどうしてどうなってかよく分からないが、とてつもなく大きなお家…鬼道くんが住んでる家にわたしは招かれていた。取りあえず、何だか自分が場違いな感じがして恥ずかしくて、門に入るときからずっと鬼道くんの服の裾を掴みっぱなしだった。呆れたような目線が多々わたしに注がれるのを感じるけれど…仕方ないじゃないか、恥ずかしいんだもん…。

「…広い…この部屋、鬼道くん1人で使ってるの?」
「ああ、兄妹は春奈だけだし、この家には俺しか子供はいない」
「へ、へえ…」

そして、やっぱり鬼道くんの私室も広かった。やっぱり財閥子息ともなると、大きな部屋でも当たり前なんだろうなあ、とか思って溜め息を吐いてしまう。自分の部屋が手狭だと思ったことは無いし、そんなに広くなくても良いと思ってるから、別に良いけど…やっぱり何だか場違いな気がする。

「掃除とかって大変じゃない?」
「いや…大体使用人がやってくれるから特には。…自分の部屋は自分で掃除するのか?」
「うん。部活がお休みの時には大体簡単に掃除するようにしてるよ。…布団だけはお母さんに干してもらってるけど」

大きな部屋が物珍しくてきょろきょろと辺りを見回していると、後ろから何だか視線を感じる。振り返ってみたら、鬼道くんが楽しげにわたしを眺めていた。

「…何?」
「いや…子供みたいだと思って」
「…どうせ子供だもん」

むっとして言い返せば、彼はさらに喉をくつくつ鳴らして笑う。…ちょっと意地悪だなあ、この人。

「…これは?随分古い雑誌みたいだけど…」

ふい、と目を逸らした先にあった、古ぼけた、けれどとても大切にされているようなサッカー雑誌が目に付いた。そうっと慎重に両手で持ち上げて鬼道くんの方へ向き直れば、彼は微かに笑ってこちらに歩いてきて、その雑誌をひょい、と取り上げる。

「俺の父さんの形見なんだ。…俺の両親は飛行機事故で亡くなってな、遺品がこれだけしかなかったんだよ」

懐かしげに、愛おしそうに雑誌の表面を撫でて、彼は呟くようにそう言うと、何故自分がサッカーを始めたのかをゆっくり語りだした。
幼い頃に亡くなってしまった両親…お父さんがサッカーが大好きだったから。幼すぎた時分に亡くした親だったから思い出も少なかったけれど、サッカーボールを蹴っていたら、お父さんと一緒にいるような気がしていたから。…けれどそのうち段々ボールを蹴る事自体が好きになったから。

雑誌を見つめて穏やかな表情で語る彼のその過去は、何だか自分のものと似ている気がして、妙に暖かかった。

「…じゃあ、わたしと一緒なんだ」
「お前と…?」
「うん。…わたしはお爺ちゃんにずうっと憧れていたから。お爺ちゃんみたいになりたくて、サッカーを始めたの」
「円堂大介のようになりたくて…だからずっとGKをしてきたと?」
「うん。…知ってるの?お爺ちゃんの事」

すとん、と彼の隣に座り込んで顔を覗きこむようにして隣を見れば、知っているさ、と返された。わたしのデータを把握しようと資料を読んでいるうちに、行き当たったらしい。



 


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