※宮坂視点

試合は白熱した拮抗戦のまま、結果2−1で雷門…風丸さんたちの勝ちだった。そして、試合を見て、気付いた事がいくつもある。
風丸さんが、何故サッカーに夢中になったか、それも全て分かってしまった。

陸上部のエースだった風丸さんと互角のスピードを持つ人がいて。そのスピードを持ってしても、ボールを奪う事や、キープし続ける事が難しい事もあって。…何よりも、個人競技の陸上とは違って、ボールを通して、仲間たちと心を一つにしてプレーする。
サッカーはサッカーで、陸上とは違う魅力に溢れている事も、試合を見ていて直ぐに感じられた。
風丸さんは…陸上のフィールドで走っている時よりも、今サッカーのフィールドで走っているほうが輝いて見えたから。…だから、心から見送れる、そう思った。納得したのだ、自分で。

「…おめでとうございます、風丸さん」
「ああ…ありがとう、宮坂。…あのな、宮坂、俺は…」

俺は、サッカーが大好きだ。そうはっきりと言いのけた風丸さんに、気持ちがすっきりするのを感じる。…そうだ、今の風丸さんのフィールドは、サッカーのグラウンドだから。

「…一郎太!…あ…」

かつかつ、と軽快な音と共にあのサッカー部のキャプテンさん…円堂さんがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。ふわふわと茶色の髪を揺らして風丸さんに駆け寄ろうとした彼女は、一旦僕を見て立ち止まる。そして、戸惑ったように風丸さんと僕とを交互に見つめて、首を傾げた。

「えっと…お邪魔?退散した方が良い?」
「あ、いや…別に邪魔では、」
「じゃあ、僕、もう行きますね!また一緒に走りましょう、風丸さん!」
「あ、おい宮坂!」

何だかもごもごと口の中で何かを言いかけた風丸さんを遮って、僕は彼女がやってきた方向へと走り出す。そして、ある程度二人から離れて、くるり、と彼らの方を振り返る。驚いたような表情をしている彼女に向かって、一つ叫んだ。

「…円堂さん!風丸さんは渡しませんからね!!」
「…え…え!?わたし!?」
「そうです、円堂さんです!!あなたには絶対、絶対渡しませんから!!」
「宮坂!!」

それだけ叫んで、再び背を向ける。風丸さんが絶叫している声が響くのを後ろに、僕は再び走り出した。…いつか、僕がまた早くなったら。円堂さんにも勝負を挑んでみよう、そう考えながら。

***

「…一郎太をわたしに渡さないってどういう意味…?一体何の話をしていたの?」
「あ、いやその…大した話は…」
「…そういえば、宮坂くんがサッカー部の誰かに一郎太が誑かされたっていう話を聞いたんだけど…教えて一郎太、一体誰に誑かされたの!?染岡くん?半田くん?…それとも豪炎寺くん!?」
「違う!誰にも誑かされて無いから!…というか誑かされたっていう言葉の意味を分かって言ってるのかお前は!!」

大会の廊下に響き渡る彼らの声は暫く続いたそうだ。



 


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