結局、1点を入れられたまま、前半戦は終了。相手の予測もつかない多彩な攻撃に皆も戸惑いの色を隠せないようだ。

「流石に全国大会なだけはあるな…」
「ここまで変幻自在だと、相手が何をしてくるかわからないよな…」

ずきずきと痛む右手を誰にも気付かれないようにそっと擦る。やはり少し腫れているようだ。
ふう、と息を吐くと突然目の前にボトルが差し出された。ビックリして前を向くと、秋ちゃんが笑ってドリンクボトルを差し出してくれていた。

「ほら、紗玖夜ちゃんもしっかり水分補給しなきゃ」
「あ…うん、ありがと、秋ちゃん」

差し出されたボトルを右手で受け取って…慌てて逆の手に持ち替える。ボトルを握った直後にびりびりとした痛みが走って、ボトルを取り落としそうになってしまったのだ。
そっと秋ちゃんを窺い見ると、わたしの変化に気付いてはいないようだったから、思わず安心して息を吐いた、その瞬間。

「…円堂!」
「はい!…って、何だ、一郎太、ビックリさせないでよ…」

険しい顔でこちらを見てくる一郎太はずんずんと音を立てつつわたしに近付いて来て、わたしの目の前にずい、と手を差し出した。

「…何?一郎太、この手は…?」
「右手。出せ円堂」
「…う、え…」
「出せ」

否を言わせないような、いつもよりも何倍も険しい顔をして、わたしの目の前に手を差し出し続ける一郎太。余りの迫力に負けて、恐る恐る右手を差し出してしまう。一郎太は若干荒々しくわたしの右手のグローブを外すと、元々寄っていた眉間のシワを更に深くした。

「…頼むから痛い時は痛いって言ってくれ」
「別に、そこまで痛くないよ…?」
「嘘つけ。…無意識だろうけど右手を庇ってる」

静かに怒っているような彼はわたしの右手を離してぽん、と頭に手を置く。視界の端に慌てたような表情で救急箱を持ってくる春奈ちゃんを映しつつ、上目遣いで一郎太の顔色を窺うと、情けなさそうな顔で呟かれた。

「…少しは、頼ってくれよ」
「…ん」

先ほどとは打って変わって所在無さげな顔をした一郎太にそう返すと、無言でぐりぐりと頭を撫でられた。

「…お前が調子が悪いなら、俺達がカバーしてやる。思いっきり行くぞ」
「…うん!」

周りをぐるりと見渡せば、次々に頷いてくれる皆。その様にいつの間にか強ばっていた頬が少しずつ緩んでいくのを感じる。
…そうだ、わたしには一郎太や、雷門の皆がついてるんだ。

「…さあ、後半が始まるぞ」

静かな豪炎寺くんの一言で皆が一斉に立ち上がる。
次々にわたしに声をかけてポジションについていく。最後にフィールドに出ていく、豪炎寺くんと一郎太の背中を見送って…わたしもその背を追う。

後半戦が始まる。…皆がサポートしてくれる分、更にしっかり頑張らなくては!



 


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