フィールドに出てストレッチしてから、皆でウォーミングアップをする。やっぱり全国というフィールドに出ているせいか、いつもよりも気合が入っているようにも感じられた。…しかし、好調にウォーミングを行っている最中、豪炎寺くんがシュートをわたしに向かって打ち込もうとした瞬間、妙な人影が乗り込んできた。
「…誰!?」
「お前に名乗る名前は無い」
「な…!」
突然現れておきながらそのフィールドを使用しているチームのキャプテンに名前さえ名乗らないとは。…やっぱり女だからナメられてるのかなあ、とかいう考えが浮かんで、若干悲しい気持ちを覚える。…わたしはわたしなりに、頑張ってるつもりなんだけどなあ…。
「豪炎寺修也だな?俺と勝負しろ!」
「…何者だ?」
「戦国伊賀島の霧隠だ」
「…名乗ってるし…」
更にがっくり。…やっぱり男の子にキャプテンの座を渡すべきかなあ…。
一瞬本気でキャプテンを降板しようかと考える。…いやでも次のキャプテンを誰に?
豪炎寺くんはあれで結構一匹狼な所があるし、染岡くんは性格でアウト。…良い人なんだけど、皆を纏めるには…と、頭の中で算段していると、唐突に霧隠くんの声が聞こえてきた。
「…逃げるのか!?この、腰抜け!」
「…ちょっと!さっきから黙って聞いてたら何なのあなた!失礼だよ!!」
聞いてなかったから細かい事はよく分からないけれど、多分豪炎寺くんは件の勝負を断ったんだろう。彼の事だから、霧隠くんを相手にするより練習したいと考えての事だ。…なのに、突然乱入してきておいて人を腰抜け呼ばわりとは…。
「…じゃあ、その勝負、わたしが受けます!」
「…円堂、相手にするな」
「そうだぞ、冷静になれ」
相手方の失礼な言動にカッとなって口を次いで出た言葉を豪炎寺くんと一郎太が口々に止める。…が、すぐに一郎太の方が表情を変えて霧隠くんの方に向き直った。
「いや…なら代わりに俺が相手になろう」
「え!?一郎太?」
「この中で一番足が早いのは俺だからな」
どうやら相手の霧隠くんは俊足の持ち主らしい、だから一郎太が対抗したがっているように見えた。
…でも、何故?
***
「…風丸は大丈夫なのか?」
「さあ…」
コーンが置かれたフィールドで睨み合いながらストレッチを続ける彼らを交互に眺めていると、音も無く隣に豪炎寺くんが寄ってきた。静かに並んだまま、ぽつりと溢す。
「…ああ見えて一郎太も結構直情型なんだよね〜…何て言うか…変なとこで素直なの」
「成る程、幼馴染み同士、似ていると言うわけか?」
「…わたし、そんなに直情型?」
妙に達観した様にわたしと一郎太を眺める豪炎寺くん。その様に少しだけムッとして膨れっ面で言い返すと、彼は軽く笑って羨ましい事だ、とだけ告げて前の方へ向き直った。
つられて前を見ると、既に2人がスタートラインに立っているところだった。
―頑張れ、一郎太。
何時もよりも凛々しく見える一郎太をじっと眺めながら、心の中でそう呟いた。
わたしに出来ることなんて、それぐらいしかなかったから。
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