フットボールフロンティアの全国大会が開催された。ようやく此処まで来た、そんな実感と、胸に少しの不安が残るまま、プレートを持ってくれている女の子の後を豪炎寺くんと並んで歩く。ちらり、と秋ちゃん達が座っている席を見上げれば…やっぱり夏未ちゃんは来れないみたい…。
フットボールフロンティアの幕開けがあるという前日、理事長が…夏未ちゃんのお父さんが酷い事故に巻き込まれてしまったのだ。…未だに意識不明のまま、らしい。それだけが心配だ。
…と思っていたら、隣の豪炎寺くんに無言で腰の辺りを突かれた。…いけない、ちゃんと前見なきゃ…。
そんな事をぼんやりと考えていたら、隣に誰か並んだ気配と共に、今度は逆隣から腰の辺りを突かれた。…何か突かれることが多いなあ…。ふい、と隣を見ると、鬼道くんがにやり、と笑ってこちらを見ていた。唇が静かに動く。

「決勝まで、楽しみにしているぞ」

勝気な、いつもの鬼道くんの台詞に顔が綻ぶのを感じる。やっぱり、帝国はまた一味違うプレーを見せてくれるに違いない。本当に決勝で戦えるのが楽しみだ。

「…うん、こっちも、ね!…ところで、足、大丈夫?」
「ああ、問題ない。…あと、父さんが会いたがっていた」
「は?何で?」

あと案ずるのは鬼道くんの足の事だけ、と思って彼にそう問えば、何か全然脈絡の無い世間話が帰ってきた。ていうか、何で鬼道財閥の会長さんがわたしに会いたがるんだろうか?

「いや、…雷門との試合の話を聞かせていたら、女性キャプテンかつGKとは興味深い、一度会ってみたいな、と…」
「鬼道くん、わたしの事どういう風に話したの…会っても面白いことなんてないですよーって伝えておいて」
「そうか?俺はお前が面白いと思うが」
「…何か…褒めてるのか、貶されてるのか…」

微妙、と不貞腐れて唇を尖らせてそう言うと、鬼道くんが隣で楽しそうな声でくつくつ笑っていた。…なんか、やっぱり鬼道くん雰囲気が丸くなったなあ。元々はこういう優しい人なんだろうな。
そう思いつつ、開会宣言をする係の人に目を向ける。…途中で聞いた、世宇子中という特別推薦枠の中学校の名前に、何処か不気味さを、不自然さを感じながら―わたし達が長年憧れていた、フットボールフロンティアの全国大会の幕が、ここに切って落とされた。



 


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