※宮坂視点

朝練に行く途中で風丸さんを見かけて、河川敷の土手で話をしたとき、絶望にも似た感覚を覚えた。…風丸さんは、陸上に対する情熱を既に失っているようで…。
信じられなかった、信じたくなかった。風丸さんは僕にとっては本当に心から尊敬できる先輩だったのだ。なのに…なのに、その風丸さんが陸上よりもサッカーを取ろうとしていることが、僕にとってはどうしても許せなかった。

そして、気になることが1つある。先ほどすれ違ったあの女の人。茶色い長い髪と、同色の大きな瞳を持っていた、小さな人。あの人は確か、風丸さんの幼馴染みでサッカー部のキャプテンだった筈だ。
心配そうな、こちらを窺うような表情で僕を見る瞳に何も言えなくなって、その場から逃げるようにしてしまった。…けれど、どうしても気になってしまったから、ついつい練習に遅れると解りながら河川敷まで戻ってしまった。

―…そして…僕は風丸さんがサッカー部に執着する理由を見つけてしまった。

土手の方で抱き合っている風丸さんとあのサッカー部のキャプテン。その光景を見た瞬間、何故風丸さんがサッカー部に残ろうとしつづけているか分かった。

―風丸さんは、彼女に誑かされているんだ!そうに違いない。昔から風丸さんが彼女に好意を寄せている事は陸上部の中でのひそやかな噂として流れていたのを聞いたことがある。
だからあの人はそれを利用して風丸さんをサッカー部に入れて、更にはそこに留めるつもりなんだ!

こうしてはいられない、直に彼女に会って、彼女に風丸さんから手を引くように言わなければ!

***

「…え?一郎太が誑かされた?」
「そうです!だから風丸さんはサッカー部に在籍し続けてるんです!」
「はあ…でも…一郎太ってそんなに周りの人間に左右されやすい性格だったっけ…?」

放課後に秋ちゃんと一緒にグラウンドに向かおうとしていたら、あの宮坂って言う男の子に呼び止められた。…相変わらず綺麗な子だなあ、羨ましい。
そして、唐突に一郎太は誑かされているからサッカー部にいるんだと言う事を言い始めた。…一体何の事だろうか、と隣の秋ちゃんを見やれば、彼女もまた困惑した様な表情で宮坂という子を見つめている。

「とにかく…!風丸さんをこれ以上誑かすのは止めてください!」
「え、…ちょっと!誰が一郎太を誑かしてるの…って、行っちゃった…」

だーっと砂埃が立ちそうな勢いで向こうへ走っていった宮坂くんを所在も無く見送る羽目になる。…困ったなあ、何か問題が起こっているならちゃんと解決しなきゃいけないのに、その問題の元の人がよく分からないままなんて…。

「…どうしよう、秋ちゃん…」
「ああ…うん、でも、放っておいても大丈夫だと思うから…(多分、あの風丸くんを誑かした人って、紗玖夜ちゃんの事だろうからなあ…)」

秋ちゃんの方に目を向ければ、苦笑気味の秋ちゃんが首を振って部活に遅れるよ、と言うばかりだった。…本当に、一郎太を誑かした人って、一体誰なんだろう?気になるなあ…。



 


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