「…一郎太…ごめんね、全部って訳じゃないけど…聞いちゃった…」
「…いいさ、別に。…ほら、座れよ」

あの宮坂っていう子が走っていった方向を眺めていた一郎太に声をかけると、いつもの通り、優しそうに笑って自分の隣をとんとん、と軽く叩いた。素直にその隣に腰をおろせば、彼は苦笑染みた顔で静かに前に流れる川を見つめている。

「…忘れてたよ、一郎太が助っ人だったって事。…これからもずっと、サッカー部にいてくれるって…でも、あの子のさっきの言葉を聞いて、ああそうかって…」
「…俺もさ、初めは本当に助っ人だけのつもりだったんだよ。…でもいつからだろうな、ずっとサッカーの事ばっかり考え続けてる。…サッカーが楽しくてしょうがないんだ」

本当に楽しそうに空を見上げている一郎太の横顔を眺める。キラキラしてて、本当に綺麗な笑顔。

「…戻る、の?」
「…分からない。サッカー部の皆も陸上の皆も…俺にとっては大事な仲間なんだ。どっちを選んでも…どっちも裏切る様な気がして…」

ふと、もう一度俯いた彼は苦しそうな表情に戻ってしまっていた。…その表情で、わたしは一郎太にかける言葉を失う。…無理は、させられないし、無理強いもさせたくない。…寂しいけれど、でも一郎太には一郎太がしたい事をさせてあげたい。

「…一郎太が、したいようにすればいいと思う、よ。一郎太が選んだ道が、最善の道だと思う。…だから、いっぱい悩んで、考えて出した答えを優先してね」
「…ありがとう」
「…じゃあ、学校に行こっか!」

何とか元気に振舞おうとして、立ち上がる。…もう、悩んでいてもしかたない。早く学校に行って、早く練習を始めよう…と、した瞬間。

「きゃあっ!」
「円堂!」

情けないことに、土手の坂で滑ってしまった。川に落ちる!そう思った次の瞬間、一郎太の腕に抱きこまれていた。そのまま次いで腰を支えられて
、慎重に抱き起こされる。
恐る恐る上を見上げると、一郎太が呆れたような表情でわたしを見下ろしていた。

「…そうだった、お前の無茶っぷりが心配になったからってのもサッカー部に入った1つの理由だったな」
「うっ…本当にごめんなさい…」

あんまりにもみっともないところを見せてしまって項垂れていると、ゆっくりと右手を握られた。そして、顔をあげる暇もなく引っ張られる。

「…さ、学校に行くぞ!」
「…うん!!」

全ては、次の試合の後に決まること。だから、今はしっかり目の前にあること…試合の事だけを考えよう。優しい笑顔を浮かべた一郎太に腕を引かれながら、そう思った。



 


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