サッカー部のグラウンドに戻ってきた一郎太は、完全に様子がおかしかった。先程まではほぼ完璧に近かった炎の風見鶏が、一度も決まらなくなってしまったのだ。顔色も、何処と無く浮かない感じの顔をしているし…何かあったんだろうな。
一郎太を連れて行ったあの可愛い一年生であろう女の子…あのユニフォームは前に一郎太が着ていたのを見たことがあるから…あれは恐らく陸上部の人。
ふう、と一息吐いて、何やら豪炎寺くんと話している一郎太に近寄る。

「…何か、あったの?悩み事なら、一緒に考えるよ?」
「…いや…何でも、無い。大丈夫だ、円堂」

…嘘を吐くのは、相変わらず下手なんだね。
そう言いかけて、その言葉を飲み込む。…何となく、何を言われたかぐらいなら予想はつく。きっと、あの後輩さんや陸上部の人たちから“戻ってきてくれ”って言われたんだろう。

確かに、元はといえば一郎太はわたしが帝国と試合をする時に人数不足を補おうとして助っ人としてサッカー部に入って欲しいと頼んだのだ。そう、あくまでも彼は、助っ人。あまりにも長い間、彼をサッカー部に留めすぎて、それを忘れてしまっていた。…何よりも、昔みたいにずっと一緒にいられることに、わたしは安心感さえ抱いていたのだ。

―一郎太は、まだ、ここにいてくれるの?…それとも、陸上部に戻りたい?

そう聞こうとしながら、その言葉はついにわたしの口から漏れることは無かった。
…もし、陸上部に戻りたいと言われたなら、わたし達にそれを留める事は出来ない。これは、一郎太の問題だ。
でも…心の何処かで、行かないで欲しい、傍にいて欲しいと、一郎太にいつまでも甘えてすがりつこうとする自分がいて。
結局、ついにその質問を彼に直接投げ掛ける事が出来なかった。

***

昨日の事が気になって、あまり眠れなかった翌日、わたしは1人で登校していた。…いつもなら、一郎太と一緒になるのに…今日はいなかった。…昨日の事、一郎太はどう思ってるんだろうか。

「…やっぱり…ちゃんと聞かなくちゃ駄目だよね…」

ぽつり、と呟いたその次の瞬間、聞き覚えの有る声が先の道から聞こえてきた。それをどこから来たのか確かめようと、ふっと視線を上げればすぐそこは河川敷。…随分ぼんやりと歩いてたんだな、わたし。

「…じゃあもう良いじゃないですか!陸上部に戻ってきてくださいよ、風丸さん!」
「…!」

知った名前に思わずどくり、と心臓が一つ大きく震える。そっとグラウンドの方を覗き見れば、そこには一郎太とあの宮坂っていう子が…あれ、…あの子学ラン着てる…てことは男の子!?
先入観によって酷い誤解をしていた。…そうか、あの子男の子だったんだ…てっきり女の子だと思ってた。

どうでも良いことを頭の片隅で考えつつ、そっと話している2人に近寄る。…と、その瞬間、宮坂という子がわたしのいる方へくるりと向きを変えて…そして、一瞬驚いた顔をした後、―わたしを一睨みして、学校のある方向へと向かっていってしまった。



 


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テーマ「人外ファンタジー」
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