※風丸視点 

理事長の話を聞き終わって、皆と一緒にグラウンドへ出る。これからまた、全国大会へ向けての練習をしなければならない。…と、気を引き締めなおした丁度その時。

「風丸さん!」

「…宮坂!」

聞きなれた声と共に、黄色い髪に色黒の肌を持つ、陸上部の後輩と出会った。俺が陸上部にいた頃、俺の後ろをくっついてきた可愛い後輩だ。その後輩が勢い良く俺の元に走ってくる。…そして、俺にとある一言を投げかけた。


「風丸さん、いつ戻ってくるんですか!?」

「…え…」

戻る?何処へ?…ああ、そうか、俺はこいつらに“助っ人としてサッカー部に入る”と伝えていたんだった。思わず目の前が薄暗くなりかけた時、皆よりもゆっくりと木野と談笑しながら部室から出てきた円堂が、俺に気付いて近寄ってきた。あの、俺が惹かれた笑みを伴って。

「どうかしたの?一郎太。練習、始まるよ?」

「…ああ、悪い。先に行っててくれないか?」

「…?うん、わかった!先に行ってるね!」

楽しそうににこりと微笑んだ顔で身を翻していく円堂の背中を後輩の前だというのに、思わず見つめてしまった。宮坂に声を掛けられて陸上部へ連れて行かれるまでの間、俺はずっと円堂の方を見つめ続けていた。

***

久しぶりに顔を出した陸上部では、皆口々にサッカー部を褒め、…その功績が俺が助っ人として行ったからだと俺を褒めた。口では穏やかにそんな事無いさ、と言い返しながら、心の中でも考える。…本当に、凄いのは俺じゃなくて、やっぱり円堂の力なのだと。

彼女の諦めない心意気だとか、どこまでも前を見据える強さだとかが皆を引っ張って、一つのチームとしての統率を取っているから、今のサッカー部がある。結局は、俺もその光のような強さに惹かれた人間の一人なのだと。

「…で、いつ戻ってくるんですか!?」

そして…陸上部の皆の口々から飛び出る、この言葉に、俺は正直戸惑いを持っていた。初めは、本当にサッカーは助っ人として入るだけだと思っていた。幼馴染で…ずっと好意を抱いていた相手からの頼みだったと言う事も僅かながらに入っているが、それでもやっぱりただの助っ人であるつもりだった。…でも、それが最近本気になってサッカーをやっていた記憶がある。寝ても冷めてもサッカーの事ばかり考えて、それを円堂や豪炎寺や染岡と語らう。その時間が楽しくて、仕方なくて。

…正直、陸上の事を忘れかけていた程、俺はサッカーにのめり込んでしまっていたのだ。だから、宮坂や他の陸上部の皆がかけてくる言葉が、まるで重りのように俺に圧し掛かるのを強く感じる。戻ってきて欲しい、その一言が、俺にはまるで鉛を持たされているような感覚にまでさせられてしまった。…俺は…どうしたらいいのだろうか。





 


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