翌日、皆を集めて河川敷で身体をほぐしていると、続々とイナズマイレブンのメンバーと見られる人々が集まってきた。中には見たことのある人もちらほらいるし。
生活指導担当の菅田先生、駅前の紳士服店の店長さん、理髪店の人…おまけに、夏未ちゃんの家の執事さんまでもがイナズマイレブンのメンバーだったらしい。…響木監督にせよイナズマイレブンにせよ、伝説って言われる人たちは案外身近にいたんだと改めて実感してしまった。

「ほお、あの大介さんの孫ねえ…」
「似てないなあ…やっぱり女の子だからかねえ」

…そして、わたしにとってはお馴染みな会話、“お爺ちゃんと似てない”。確かにお爺ちゃんには憧れてるけど、容姿的に似てるって言われたらショックで泣くよ絶対…。
取りあえず全員そろったようなので、さっそく試合を始めようとゴール前へと収まる。他の皆も自分のポジションについているのを確認して、一声。

「よし、今日はイナズマイレブンの人たちに胸を貸してもらうつもりで思いっきりプレーしようね!」

わたしのその一声の直後、鬼瓦さんの鳴らすホイッスルが鳴り響いた。

***

それからの試合は、とても伝説を相手にしているような感じではなかった。勿論、40年という長すぎるブランクがあって、年齢の差がありすぎるからというのも分かる。…分かるけれど、こんな適当にプレーされて、やる気が無い態度を見せられて、わたしの中の怒りに似た感情はふつふつと膨れ上がっていく。
自分のシュートを止められて文句を言う者、身体が思うように動かないからって言い訳をしだす者。…何てみっともない姿なのだろうか、と思う。
相手は年上だからと何とか押さえているが、正直今にも怒鳴ってしまいそうだ。―いい加減にしろ、と。

「…これで分かっただろう?イナズマイレブンはもう終わっているんだ」

そして、決定打にこの浮島さんの一言。思わず押さえていた怒りが頭の隅っこから漏れ出すのを感じた。…時にはもう遅かった。

「…いい加減にしてください。サッカーを何だと思ってるんですか?」
「…おい、円堂…」

わたしの方の雲行きというか機嫌が急降下しているのを感じたのか、一郎太が慌てたようにわたしの所にやって来る。その後ろに何処となく心配そうな顔をした豪炎寺くんがいるのがちらりと見えた。

「浮島さん達、今真剣にプレーしてないでしょう?…別に伝説だった頃に戻って完璧なプレーを見せてくださいって言ってるわけじゃありません。でも、完璧で無くたって真剣にプレーすることくらい出来るでしょう?…貴方たちは、それらしい理由をつけて逃げてるだけなんじゃないですか?」
「円堂!」

真正面から浮島さんを睨みつけると、ぐっと肩に強い感触がする。…一郎太が怖いくらいの表情で、首を横に振った。…これ以上、言うなと言わんばかりに。
その表情に負けて、わたしも渋々自分のポジションに戻って、もう一度その場に立ち尽くしている浮島さんを見つめた。
…そう、大切なのは完璧でなくとも、真剣にその一つの事に取り組む、という事。それが段々積み重なって、伝説が出来るのだと、わたしはそう信じている。



 


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