※豪炎寺視点

おかしい。そう気付いたのは、最初の百烈ショットを止め損ねた時からだった。今の円堂ならば、あの程度の必殺技なら止めきれるはずだ。なのに、彼女はらしくないミスをしてあわや失点に持ち込む所だった。
それから試合中、彼女の表情を伺っていたが、彼女の気持ちが、今サッカーに無いことに直ぐに気付けた。
滅多として見せない憂いを帯びた心配そうな光を含んだ瞳。その先には…鬼道が居たからだ。普段ならばその瞳は仲間である俺達雷門イレブンに向けられるものである筈なのに。

鬼道が直接ゴールを決めに来た時に見せたあの顔だって、明らかに動揺をしてしまっているのが見え見えだった。何とかゴール前で鬼道に直接シュートブロック出来たから失点しなかったものの、上手くいってなければ確実に失点していた筈だ。

前半終了時に一点追加されたままで終わった。円堂は今にも泣きそうな、戸惑った顔で俯いている。風丸が必死で慰めているのに、ただ頷く事しか出来ずにいた。
…このまま彼女がこの調子ならば、雷門イレブンは長持ちしないだろう。何だかんだで、最終的に彼女の精神的な支えがこのチームを成り立たせているのだから。

―…早く、いつものお前に戻ってくれ。絶対的な安心感をもたらす、いつものお前に。

俺はただひたすらそう願うことしか出来なかった。

***

調子が上がらないまま、後半に入る。前半に一点入れられてしまったから、もうこれ以上の失点は許されない。何時もよりも思うように体が動かないまま、何とかピッチに上がり、ゴールの前に立つ。
休憩中、夏未ちゃんに怒られて、監督に大丈夫かと聞かれて、一郎太達にまで心配をかけてしまった。…どうしてしまったんだろう、わたしは。
全力で向かってるつもりなのに、いつもどおりに試合をしているつもりなのに。

足が鉛のように重い気がする。試合中、こんな思いをするなんて初めてだ。
一気に上がってくる帝国を何処と無くぼんやりと眺めていたら、ふと、横や前に人影を感じる。慌てて確認すれば、一郎太や土門くん、壁山くんに栗松くんがわたしの前に立ちはだかり、ゴールを守ろうとしていた。

「みんな…」
「お前の調子が悪いなら、皆でカバーする!それが俺達の…雷門のサッカー、だろ?」

頼もしくそう言った彼らは果敢に体でボールを止めていく。嵐のような帝国の怒濤の攻撃を防いでくれていた。…満足にノーマルシュートも止められない、わたしの力を補うために。

あまりの不甲斐なさに涙が出そうになるのを唇を噛むので堪えて前を向き直れば、丁度デスゾーンが打ち込まれたのが見えた。
咄嗟に動こうとしても、突如の行動に体がついていけないまま―いれられる、そう思った、その瞬間、土門くんがわたしの前に飛び出した。

「土門くん!!」
「う、ぐっ…!」

茫然とするしかなかった。デスゾーンを、土門くんは顔で止めに言ったのだ。
弾き飛ばされた土門くんの所に駆け寄れば、彼は痛みを堪えて、笑っていた。

「はは…これで俺も、雷門の一員に、…なれた、かな…」「あ、当たり前、だよ!土門くんは、もうとっくにわたし達の仲間だよ!」

必死に言い募れば、彼は満足そうにそっか、と頷いて嬉しそうにまた笑った。



 


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