悪魔からの毒林檎で溺れるなら本望と嗤う


「何故アメリカの……しかも、このテキサスなのか、ようやく理解しました」

ヒル魔が訪ねたのはとある人物。出で立ちはまさに日本人。小柄な体型に、手拭いと股引。
初対面だが、悠里もよく知る人物だった。

「酒奇溝六さん、ですね。千石大学の二本刀だった」
「うぃっぷ、こんな嬢ちゃんが現役時代の俺のこと知ってるとはなァ」
「アメフト界では有名人ですから」
「熱心な嬢ちゃんだ。おいヒル魔ァ、こんなべっぴんどこで捕まえてきやがった!」
「黙れこの飲んだくれエロ親父!俺の話の内容は理解したんだろうな!?」

溝六とヒル魔の関係は、ヒル魔達の中学時代に遡る。
ヒル魔や栗田が通っていた麻黄第十三中学校の教師を務めていた溝六は、ヒル魔たちのトレーナーを務めていたのだ。
実力の申し分ない指導者なのである。
とはいえ、飲んだくれである博打好き。結果、借金を背負ってアメリカくんだりまで逃亡して今に至っているのだが。

「ん?」

ビーチが賑やかになったなと、悠里は目を向けると、そこで行われていたのはビーチフットの大会だった。
そして見知った顔がそこに出場しているのを捉えた。

「ヒル魔さん、あれ……」
「何やってんだあいつら」

セナにモン太そして姉崎。そこにプラスして先ほどガンショップで出会った西部のキッドとその監督。
実況からは老若男女ワイワイチームなんて呼び方をされている。
そんな下馬評とは裏腹に、ワイワイチームもといデビルガンマンズは勝ち進み順調に駒を進めていた。
途中西部の鉄馬が乱入して大幅に戦力アップをしたりがあったが。

「ケケケ!思ったよりやるじゃねえかあいつら!」

元来面白いことが好きな性格であるヒル魔は、デビルガンマンズの奮闘ぶりを見てご満悦である。何より、セナとモン太がトッププレイヤーともいえるキッドら、西部の面々と共に戦えていることが嬉しいのだろうと、横目で悠里は見ていた。
しかし決勝に行き、そこに暗雲が立ち込め始めた。
決勝の相手は三連覇を狙う地元のビーチフットチーム。

「強いだろ、あいつら」

酒瓶を傾けながら溝六は呟いた。
TOO TATOOは短いショートパスをぴょんぴょんと繋げ、タッチインを続けざまにとっていった。
ビーチフットとアメフトは似ているが細々としたところが違う。
大きく違うところの一つが、パスを何度も投げていいというところにあった。

「地元の不良たちを集めてビーチフットを教えってやったのよ」

そう言って自慢げに話す溝六はニヤリと笑ってヒル魔を見遣った。

「あいつらにお前たちが勝てたなら”あの話”受けてやってもいいぞ」

それを聞いたヒル魔はおもむろに靴を脱ぎビーチへと降りていった。

「俺も参戦するが、問題ねえな?」
「あぁ」
「糞碧眼、テメーも来い」
「私も、参加していいんですか」
「パスができるやつは一人でも多いほうが有利だ」

そう言うとヒル魔は笑って悠里へと手を伸ばした。
悠里もサンダルを脱ぎ捨てると、伸ばされたヒル魔の手を取った。

「糞マネ、選手交代だ」
「モン太も交代でよろしく」
「ムッキャ!?お、俺もかよ……!!」
「今回はノーコンが仇になったね」

くっそぉと悪態付きながら、モン太は姉崎と共に他の泥門メンバーを探しにその場を後にした。

「泥門のマネージャー、だよね?」
「マネージャーだったり主務だったり、まあいろいろですね」
「おたくも、大変だね」
「思ったより楽しくさせてもらってますよ。あぁ、QB経験があるので参加させてもらうことになりました。お手柔らかにお願いしますね、キッドさん」
「こちらこそ」

悠里は羽織っていた薄手のパーカを脱ぎ、水着の姿になった。
身につけているのは黒のバンドゥ・ビキニ。下はボーイレッグとなっていた。
長い黒髪は手首に巻いていた髪結い紐で一括りに結い上げる。
色白の肌がこれでもかと主張する。女性らしいくびれや丸みにも目が向くが、何より鍛え上げられた体に思わずセナはすごいと呟いた。
QB故に鍛え上げられた腕と肩、そしてそれを支える腹筋。目には見えていないだろうがインナーマッスルも相当鍛え上げられているだろうことは、その場にいた誰しもが感じ取った。

「じゃあ、最初はQB三人で進めるとするか」

中心に立つヒル魔。その右隣にキッド、左には悠里。
掛け声とともに放たれるボールをまずはヒル魔がとり、巧みなボールハンドリングで相手を撹乱させキッドへと渡す。受け取ったキッドは十分に敵をひきつけてから持ち前の早打ちで少し前を走っていた悠里へとパスをする。
悠里も一度パスフェイントを挟み、スピンで敵を抜き去るとヒル魔に向かってパスを投げた。
TOO TATOOのお株を奪うかのように繰り広げられるパスの応酬に会場も盛り上がる。
耐えきれずあがってきた敵に、しめたと言わんばかりに放たれるロングパス。
キッドは鉄馬にパスコースを叫ぶと、忠実にパスコースを守った鉄馬の手に収まるボール。それをトスし、セナが受け取って爆走。
気がつけばデビルガンマンズは大逆転勝利を収めていた。











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