終焉に開いた幕、魔法の溶けたシンデレラ


「アメフト部があって、でも弱小ということは聞き及んでいましたが、部員が2名だとは聞いてませんでしたよ」
「テメーが居りゃあ3人だ」
「……屁理屈」

個々の力があるのを悠里は認めているが、アメフトは二人で出来るスポーツではない。無論、三人でも出来ない。
今日、ラインマンの栗田に挨拶をしたところであった。そして、泥門高校アメフト部の部員がその二人だけであったのを初めて知ったのだ。
夕暮れ時の商店街。泥門高校に一番近いコンビニへ買い出しをしながら悠里とヒル魔は今後について話し合っていた。

「見据えているのは秋大会のみ、という認識で間違っていないですね」
「あァ。急務はなんだと考える、糞碧眼」
「作戦の幅を増やすのであれば、レシーバー。堅実に着実に地力をつけるのであれば、RBでしょうね」

QBのヒル魔。ラインマンの栗田。中核となる二人に加えあと一人、攻撃の核となるメンバーが加入すれば、劇的にチームは変わる。ヒル魔も悠里もそんな予感を感じていた。
ヒル魔曰く、2年以上で使える奴はいねぇ、とのこと。
探すならば、新入生。

「この後は?」
「春大会に必要なモンの買い出しだな。欲しいモンあるか?」
「薬局に行きたいです。テーピング類もそうですが、クエン酸とかが欲しいです」
「あ?ドリンク一から作るつもりか?」
「えぇ。レモン汁の方が好ましいですけど、保存という意味ではクエン酸の方が便利ですし」

真面目な性格であるのは認識していたが、やりだすとこだわるタイプであるのだと、ヒル魔は悠里の認識を改めた。

コンビニの自動ドアをくぐると、一歩先に出たヒル魔が何かに気づいたように立ち止まった。
それに習うように悠里も立ち止まり、ヒル魔の視線の先を追った。
夕方ということもあり、混み合っている商店街の入り口付近に立つ一人の少年。自分たちと同じくグリーンのブレザーに身を包む小柄な少年は肩で息をしながら、商店街の人混みを見据えていた。

「あれは、」
「うちのクラスの、小早川?」

見覚えがあると、悠里は記憶を引っ張り出し、彼の名前を口にした。
その刹那、ヒル魔と悠里の目の前に一陣の風が巻き起こった。

「!」

ヒル魔の顔にも、悠里の顔にも浮かぶのは驚愕の色。
先に我に返ったのはヒル魔だった。その顔にはいつもの、否、いつも以上の笑みを湛えていた。

「いくぞ!糞碧眼!!」

そのヒル魔の声で我に返った悠里は、小早川を追うヒル魔の背を追った。
後姿でもわかる、楽しそうなヒル魔の姿を見ながら悠里もまた楽しげな笑みを浮かべた。
本人すら気づかないうちに。

ヒル魔と悠里は回り込み、駅のフェンスへよじ登り、高いところから小早川と、その小早川追いかける不良三人組を見下ろしていた。
商店街の人混みを走る小早川の走りは完璧なものだった。
どうすれば人を抜きされるのかが彼の目には見えているように、見受けられた。
加速、カット、緩急。どれを取っても一流のRBのソレに、悠里は目を奪われていた。
最後に回り込み待ち構えていた一人の不良を華麗なスピンで抜き去ると、発車寸前だった電車へ駆け込み乗車し、不良三人を振り切った。
すでに悠里の脳内にはRBとして活躍する小早川の姿が浮かんでいた。

「おい」

気づけばヒル魔はフェンスから飛び降りており、小早川を追いかけていた不良たちを座椅子にしていた。

「あいつの名前は?」
「小早川。小早川瀬那」

ニタリと、意地の悪い笑みを浮かべたヒル魔を見て、悠里は内心、小早川に合掌していた。

「買い出ししてろ、糞碧眼」
「ヒル魔さんは」
「ネタ集めだ」

懐から黒い手帳を取り出したヒル魔を見て、今度は内心、不良三人に合掌をした。きっとこのあと、あられもない姿にされ、脅迫ネタにされ、一生彼の奴隷になるのだろう。

「領収書切っとけ。部費で払う」
「校長のポケットマネーの間違いでは?」
「ケケケケケ」

今の自分にできること、やるべきことは買い出しであると判断した悠里はもう一度ヒル魔を見遣り、そして踵を返した。






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