終焉に開いた幕、魔法の溶けたシンデレラ


泥門にあるトレーニングルームは事前予約をしていればどの部活でも使用ができる。
広くはないし、最新設備というわけでもないので、特別入れ込んで使っている部活もないのだ。
その日も利用者はいるものの、ごった返しているというわけではなく、まばら。
制服から動きやすい恰好へと着替えた面々は、ベンチプレスの周りへと集まった。

「マネージャーはトレーナー兼任だからな。ベンチプレスのやり方くらい覚えておけよ」

そういったヒル魔に姉崎はこくりと頷いた。

「おい、糞碧眼。テメーはわかんだろ」
「はい」

ヒル魔に話を振られた悠里は皆の視線を一身に受けた。

「じゃあ、まあ、簡単に。セナ」

悠里はセナを呼びつけ、ベンチプレスの台に横たわらせた。

「ここに横になって、基本姿勢は手足共にハの字を書くように」

台から投げ出された足を地面につけ、ハの字のように。腕も肩幅より少し広く広げた状態で、バーを握る。

「あとは均等に、このバーに重りをつけていきます。まずは……」

ちらり、悠里はヒル魔と栗田を見遣る。

「軽いおもりから」
「合計20sからいくか」

それを聞いた悠里は姉崎とともにおもりを用意する。
バーの片方に5sのおもりを付けていく。
補助者がそれを支えて、持ち上げていく。
補助者であった悠里が手を離した瞬間、バーはセナの体に沈み込んでいった。

「うぐ!」
「きゃー!セナが!セナが!!」
「まじか」

ぴくりと眉毛を動かした悠里はセナの体からバーを待ちあげた。
少し思案した悠里は、バーにつけたおもりを外した。

「バーは、持てる?」
「こ、これならなんとか……」
「ま、まあ、バーだけでも10sはあるからね……」

栗田と悠里は苦笑いを浮かべた。

「そんなに重たいの?私も持ってみていい?」
「え、まもり姉ちゃん危ないよ」
「じゃあ、さっきと同じ20sのせますね」

がちゃり。
さっきセナの持てなかったものを姉崎はふらふらではあるものの、持ち上げて見せた。
セナは茫然。

「女でもこんくらいは上がんだろ」

ヒル魔がセナに追い打ちをかけていた。
その後、他メンバーの測定も終え、ヒル魔は75sを、栗田は160sを持ち上げた。

「おい」

おもりを片付けていた悠里はヒル魔に声をかけられ振り返った。

「はい?」
「折角だ、テメーも持ってみろ」
「え、いえ、私は――」
「僕も手伝うよ」

栗田がその後ろでニコニコとおもしを運び始め、悠里は深いため息をついた。

「どのくらい?とりあえず、20sのせる?」
「もっと持てんだろ」
「…………50sのせてください」
「えっ、悠里ちゃん、大丈夫?」

心配そうに覗き込む栗田。悠里は大丈夫だと、頷いて見せた。
片方に20sずつのせる。それを悠里はすっと、持ち上げた。

「わー!すごいすごい!」

5秒ほど持ち上げていたそれをそっと下す。腹筋を使って起き上がった悠里は視線を感じ顔を向ける。もちろんそれは、ヒル魔だった。
口には出していない。しかしヒル魔の視線は、悠里に訴えかけていた。
「手を抜いたな」と。
悠里はその視線を受け止めながら、何を返すでもなく、視線を外した。







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