悪魔からの毒林檎で溺れるなら本望と嗤う


全員のアメリカ滞在が決まり、帰国準備を進めていた姉崎も戻り、本当に全員がアメリカに残ることが決まった。
まずは腹ごしらえと、ハンバーガーショップへと入り、各々空腹を満たす。
ほとんどのメンバーが英語を話せないため、教養のある姉崎が中心に動き、その間”アイシールド21”であることを暴露したセナが質問攻めにあう。
勿論、セナの”保護者”である姉崎にはまだ、伝えていない。

「確かもうそろそろ……きた」

食事もそこそこに、情報収集をしていた悠里はとあるページを開き、ヒル魔を呼んだ。

「出ました。事前情報との差異はほとんどなさそうですね」
「そうみてぇだな」

パソコンの画面を二人で覗き込み、互いに頷く。

「おう、テメーら!月刊アメフトのサイトに、秋大会東京地区のトーナメント表だ」
「「「おおぉぉ!!」」」

ヒル魔の呼び声に誰しもが振り返り、その小さなパソコンの画面を覗き込んだ。
皆はすぐさま自分たちの名前、泥門を探し出し、上へと続く線をなぞった。

「いよいよ秋大会かぁー!!」
「泥門はそっちで、王城はそっちだから……」
「決勝まではあたんねぇな!」

春大会で泥門が敗北を喫した相手、王城ホワイトナイツ。
セナは個人的にライバルとも言える進清十郎と、決勝での勝負を約束していた。
このトーナメント表であるなら、順当に勝ち進めば決勝であたることになる。

「うちの一回戦の相手は?」

チキンを購入してきた姉崎が皿を抱えてやってきて皆と同じように小さな画面を覗き込む。
その言葉に皆が、泥門と隣り合い、繋がる名前を読み上げた。

「網乃高校、サイボーグス????」

そのころ、既に皆の横で、別のパソコンを立ち上げていた悠里は網乃高校のことを調べ上げていた。
とはいえ、網乃高校を調べ上げてもアメフトの結果は出てこない。
悠里はひとり、静かにため息をついた。

「(対策が練りづらい……)」

悠里の隣に腰を落ち着けているヒル魔も網乃のことはなんとなく調べが付いているのか、横目で悠里を見遣りつつ、ポーカーフェイスを作り上げていた。

網乃高校。
通称「大会荒らしの網乃」
名門、網乃大学の付属高校として設立されたそこは、有名な進学校である。
卒業生のほとんどは、医者か弁護士、政治家へ。
そんな網乃高校が目指すのは「文武両道」であった。
毎年学校が一丸となり、ひとつのスポーツに絞って大会へと出場してくるのだ。
去年はサッカーで、一昨年はバスケで、それぞれ優勝という成績をおさめている。
だから「大会荒らし」という異名をつけられているのだ。
その中で今年はアメフト、ということ。
だからこそ、網乃を調べてもアメフトの情報を何一つとして出てこない。
何せ秋大会初戦の泥門戦が網乃にとっては初の公式戦になるのだから。

こんな情報を今から地獄へという面々に伝えてもしょうがない。
そう判断した悠里は口を閉じたまま、開いていたパソコンも閉じた。
荷物の整理をつけ、ハンバーガーショップのトイレで着替える。
悠里は事前にデス・マーチがどういったものかをヒル魔と溝六から聞いていた。
UV加工された黒い長袖インナーに、通気性のいい白い半袖を重ね着。
スポーツ用のタイツを履き、ショートパンツを合わせる。
靴もランニングシューズへと履き替え、臀部まである髪の毛を結い上げ、メッシュ生地のキャップ帽を被った。

「……よし」

個室の扉を開け、鏡で自分の姿を確認した悠里は太陽が照りつける外へと向かった。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -