終焉に開いた幕、魔法の溶けたシンデレラ



アイシールド21勧誘騒動に姉崎の加入、デビルバッツ初勝利と何かと騒がしくしたのち、次の対戦相手が優勝候補筆頭、強豪校の王城ホワイトナイツであると知り阿鼻叫喚したあと。
またあの大量の荷物の荷造りをし、泥門高校へと帰り、そのままメンバーは解散。
部室に残ったのはヒル魔と悠里の二人だけとなっていた。

「で?テメーは何でそんな不機嫌なんだ?」

碧路悠里は鉄仮面かと思うほど感情を顔に出さない。感情を顔に出さないのは無意識であったが、それと同時に、表情で人に何かを伝えるのはひとつのツールとして考え、その方が伝わりやすいというときにはよく表情を変えていた。
先ほどの試合が終わった後に顔をしかめたりなど。
今はいつもの鉄仮面である。それでもヒル魔は目敏く悠里の感情を読み取って見せた。

「不機嫌、に見えますか」

小さな机と小さな椅子に体を収め、持ち込んだノートパソコンにデータを移す悠里。
顔は画面を見つめたままである。

「別の言葉を使うとしたら、そうだなぁ、不愉快、か?」
「そっちの方が、確かにしっくりくると思います」

データを写し終えると、その他の試合結果を画面に映し出し、スコアを拾っていく。
攻撃回数と獲得ヤード数、それから割り出される平均ゲイン数。ランとパスの割合、成功確率。ランコース、パスコース、得意な攻撃パターンと特殊な攻撃パターン。インターセプト数などあげ出せばきりのない数値が見事に綺麗に並んでいく。

「私の好きなタイプではない。それだけのことです。仕事は仕事、そう割り切れますから、ヒル魔さんは気にしなくても問題ありません」

何度も言うようだが碧路悠里は裕福な生まれだ。
祖父はアメリカのスーパースター。そこから派生した碧路家が経営する会社は大きく成長し、アメリカと日本を中心に今もなお拡大を続けている。
これだけ聞けば幸せな人生を歩んできたのだろうと思うかもしれないが、決してそうではない。
裕福ならではの茨道を歩んできたのが碧路悠里という人間だった。
だからこそ、なんの疑問もなく押し付けがましく、セナに対して過保護になる姉崎がどうにも好きになれないのだ。

「彼女……姉崎さんがこの泥門では珍しくできる人だということは私も理解しています。その彼女がサポートすることで、より円滑にデビルバッツが回るであろうことも容易に想像がつきます。勝つためなら、なんでもする。その姿勢でいいんです。勝ちがすべての世界であることを、私も理解していますから」
「ケケケ、今日はよく喋るなァ」
「手と口を同時に動かして思考力を上げているだけです」

ヒル魔は悠里の生い立ちを簡単には把握していた。とはいえ、その人生の中で悠里が何を思い、どう過ごしてきたかまではもちろんわからなかった。
アメフトに愛された彼女が、どうして、アメフトから離れる選択をし、都内とはいえ郊外の、こんな辺鄙な泥門に身を置いているのかも、ヒル魔は知らない。
きっとヒル魔が本気を出せば調べ上げられるのだろう。しかし、ヒル魔はそれをしなかった。

「アメフト、続けるだろ?」
「一度、やると言ったからには投げ出しません」

彼もまたアメフトを愛する者であった。
だから、悠里がどれだけアメフトを愛しているのかを知っていた。
それだけわかれば、十分だったのだ。

「王城戦、どうみる」
「まず、勝てないでしょうね」

悠里の言葉にヒル魔が激昂することはない。二人は共にリアリストだった。
一息ついた悠里は続けざまに口を開いた。

「それを、勝てるかもしれないに近づけるのが私の仕事でしょうね」
「ケケケ、わかってきたじゃねえか」

豪快に笑うヒル魔は楽しそうに紙束を引っ張り出し机に広げた。

「作戦会議だ」

考えうるトリックプレーの書かれた紙束に、悠里も思わず苦笑した。
その苦笑が思いがけず柔らかなものであったのを知るのは、目の前にいたヒル魔のみであった。







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