終焉に開いた幕、魔法の溶けたシンデレラ



言うまでもないかもしれないが、今出てきたこのアイシールド21は裏でヒル魔に殺されているという設定のセナ本人である。身長は誤魔化せないが、プロテクターとヘルメット、そのヘルメットに装着してある色付きのアイシールドで、顔は認識できなくなっている。
見る人が見ればセナであると気付くだろうが、昨日今日あった人間が看破するのは難しいだろう。

「残り時間9秒!泣いても笑ってもラスト1プレーだ!キューピッドのキックオフから始まるが……このキャッチはテメーじゃ無理だ」

アメフトのボールは楕円形であり、蹴られた場合その軌道を読むこともそれをうまくキャッチすることも素人には難しい。

「代わりに俺が取る。そのままトスするから、ボール受け取って、エンドゾーンにダッシュ!6点ゲット!逆転勝利!」
「そんな都合よく……」

言葉にするのは簡単だが、やりきるのは難しい。さすがにセナも気づいているのだろう。
しかしその夢のような大逆転を引き起こすことがありえてしまうのもスポーツというもの。

「途中でこけたら終わりだから気をつけろ!」
「で、でも、11人もタックルに来るのに、」
「もうそれしかねえんだよ!テメーだって、ここで終わりは嫌だろ」
「そ、れは……」

初めてのことだらけで困惑しっぱなしのセナも、ただひとつ、勝ちたいという気持ちは同じく持っているのだ。
しかしアメフトは生易しいスポーツではないのも、今回の試合で目に焼き付いている。
防具をつけて屈強な男たちに、体一つで突っ込んでいく。怖くないはずがない。

「僕はその……力がないから……栗田さんみたく、敵をねじ伏せたりとか、」
「「「それは無理」」」

セナの言葉に思わず栗田、ヒル魔、悠里総出でツッコミが入る。

「誰が敵をねじ伏せろつったよ。テメーの腕力なんざ誰も期待しちゃいねーよ」
「そう、その代わりセナ君には脚がある!!」
「黄金の脚がね」
「フィールドをねじ伏せろ!!」

己にできることをする。それでいい。
それがアメリカンフットボールなのだから。

審判が鳴らすホイッスルが試合の再開を告げる。
セナが使っていたビデオカメラを悠里は持ち直し、録画を再開する。

「”残り9秒。キューピッドのキックオフ”」

キューピッドのキックは今日一でいいキックだった。
キックオフで放たれるキックは高ければ高いほど良いとされている。それはキックの滞空中に、オフェンス側への距離を詰められるからである。
敵も間近、宣言通りボールをキャッチしたヒル魔はそのまま近くにいたセナへとトスをした。
ボールを受け取ったセナは何故か逆走を始める。

「一体今までの試合何を見ていた……?」

しかも履いている靴はどうやら運動靴。人工芝用のスパイクよりタチが酷い。
そうこうしているうちに掲示されているタイマーは0を表示する。
それでもプレーは止まらない。アメフトはプレー終了まで止まることはない。
しかし、一度トップスピードにのったセナを止める術を相手は持っていない。
1人、また1人と敵をかわし、ヒル魔や栗田のブロックを借りながらセナはフィールドをねじ伏せた。
審判のホイッスルが鳴り響く。審判の両手が天高く掲げられる。
大逆転のタッチダウン。泥門に6点が刻み込まれた。

「Yaーーhaーー!!」

ヒル魔は独特の雄叫びとともに、いつの間にか用意されていた花火に点火。
春の昼間の空に、花火が打ち上がる。

「すごい」

悠里は脳内でセナの走りを再生していた。
プロの世界を知り、アメフトの本場アメリカのレベルを知る悠里は、日本のレベルを無意識で少し侮っていた。
こんな胸踊るプレーが、熱くなる大逆転劇が見れるとは思っていなかった。
荒削りだが、確かにダイヤの原石であるセナ。
ラインマンとしての素質は十二分にもつ栗田。
一目見て優秀な司令塔だと言わしめたヒル魔。
確信だった。このチームは大成する、と。






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