終焉に開いた幕、魔法の溶けたシンデレラ



気がつけば第4クォーター終盤、試合終了間際。残り20秒。
恋ヶ浜のランナーに押し切られ、栗田のタックルによって止めたものの、自陣20ヤードまで攻め入られた泥門は絶体絶命のピンチを迎えていた。
アメフトには敵陣に攻め込むタッチダウンという得点方法の他にキックによる得点方法も存在する。
タッチダウンでの得点は6点、フェールドゴールキックでの得点は3点ではあるが、今のように無得点の状態ならばフィールドゴールだろうがなんだろうが1点でも入れることが出来れば勝ちなのだ。
現在、残り20ヤード。十分フィールドゴールキックの圏内と言えた。

「ぜ、絶対キック止めなきゃー!!」
「わかってんだよ、んなこた!」

オロオロする栗田を横目に舌打ちをかますヒル魔はメンバーを端から端まで眺める。

「こん中で一番速いのは陸上部石丸、テメーだ!栗田が真ん中の壁こじ開けっから、なんとかキックされる前に走りこめ。ボールに触れなくてもいい。とにかくプレッシャーかけろ!」
「OK」

ヒル魔から指示を受けた陸上部助っ人の石丸は真剣な表情で頷いた。

しかし、キックを止めに行った石丸はキッカー目前で派手に転び、好機とばかりに敵のキッカーに蹴られたボールはポールの間をすり抜けていく。
キックは成功。残り時間9秒で3−0という絶望的な状況となった。

「ヤバイ、右足捻った!」

派手に転んでいた石丸はどうやら足を捻ったらしく、フィールド上で動けずにいた。
見兼ねたヒル魔は石丸へと近づく。手を貸すのかと思いきや、捻ったと言っていた石丸の右足を持ち上げると、しげしげと石丸の履いていたスパイクを眺めた。

「何だこりゃ。人工芝用のスパイクじゃねえか。滑るに決まってんだろ、誰だこんなの渡したバカは!」
「あだ、あだだだ!!!」

捻っている右足を無情かつ無慈悲に持ち上げられた石丸は悲痛な悲鳴をあげていた。
今試合を行っているフィールドは人工芝ではなく土のフィールド。
スパイクの裏面を見ると、スタッドの少ない芝用の仕様になっていた。
寧ろよく今の今まで試合ができたものだと、悠里は悲鳴を上げ続ける石丸を見つめていた。
そして同時に、試合前にスパイクを配っていたセナの姿を思い出し、合掌した。

「チッ……隠したいとかなんとか言ってる場合じゃねえな。しょうがねえ、糞碧眼。桜庭だけでもいい、排除しておけ」
「……わかりました」

ヒル魔のその言葉で意図を汲んだ悠里は視線をヒル魔から桜庭へと移した。
アイシールドの情報を与えたくないが、負けてしまったら終わりのトーナメントなのだ。
秘密兵器も使われず負ければ、それはただのガラクタである。

「テンメー!糞主務!スパイクくらいちゃんと見分けやがれ!!」
「ひーー!ごめんなさいーー!!」
「ともかく死刑にしてやる!」
「ひいぃぃぃいい!!」

死刑宣告を下したヒル魔は、セナの首根っこを掴み、引きずりながら校舎裏へと姿を消した。

「私も、与えられた仕事をこなすとしますか」

今頃ヒル魔はセナにユニフォームを着せ、アイシールド21へと変えている。
悠里がヒル魔から与えられた仕事は、対戦相手となりうる王城に対して少しでも与える情報量を減らすこと。

「気は乗らないけれど、一番手っ取り早い方法はこれか……」

大きな溜息を吐き出した悠里は、一気に息を吸い込んだ。

「あっ、あれって!ジャリプロの桜庭くん!?」
「「「さっ、桜庭くん!?」」」
「「「きゃーーーっ!!」」」

悠里の声に反応した女の子たちは目ざとく桜庭の姿を見つけ、黄色い声を発しながらまるでミサイルのように桜庭めがけて突っ込んでいった。きっとあれは桜庭にとってトラウマになること間違いなしだろう。
と、よくよく見ると何故か桜庭とともに進も姿を消していた。
どうして、と悠里が首を傾げている間にヒル魔が校舎裏から姿を現した。

「あーよく殺した!」

酷くスッキリした表情で、笑みを浮かべているヒル魔にその場にいた誰しもが震え、校舎裏で屍となっているであろうセナに合掌した。
そんなヒル魔の姿に一番慣れている栗田はヒル魔に声をかけた。

「そうそう、石丸君の代わりは?」
「ピンチにはヒーローが来るもんだ」

今日一番の笑みをヒル魔が浮かべると、土煙を上げて一人の選手が滑り込んできた。

「紹介しよう。光速のランニングバック、アイシールド21!」

そこには一人のヒーローが立っていた。






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