悪魔からの毒林檎で溺れるなら本望と嗤う




場所は打って変わってベン牧場。
西部の監督の持っている牧場である。
デビルガンマンズとして優勝を果たしたビーチフットで手に入れたのは賞金10万ドルと副賞の牛だった。
西部の監督はどうやらその牛に惚れ込んだらしく、ビーチフットの大会に参加したのだった。
優勝した今、牛はデビルガンマンズのものだが、牛を連れてではタクシーにも乗れない。
そこで溝六が所持していたデコトラでベン牧場まで行くことに。代わりにベン牧場への滞在を許可してもらったのだ。
ほぼ無計画でやってきたアメリカにおいて、宿なしが解決するのは泥門としても嬉しい話だったのだ。
その日の夜は西部と泥門合同でのバーベキューが行われた。

次の日の朝。遥か彼方の地平線に光が差し始めた頃、悠里は目を覚まし顔を洗うと手早くジャージに着替え、広大な牧場をゆったりとしたペースで走り始めた。
走り始めて数分後には続々と西部の面々が牧場に姿を現し始め、練習が始まった。

「やはり、強いな、このチーム」

今年の春大会で王城と決勝を演じて見せた西部。強いチームであることは誰の目にも明らかであったが、このチームの持つ実力はそんなものではないのだと、悠里は肌で感じていた。

「嬢ちゃんも早いな」

一通り走り終えた悠里がタオルで汗を拭き取っていると、溝六から声をかけられた。手渡されたボトルを受け取り口をつけると、中には水が入っていた。

「ただのルーティンワークです。特別なことは何もしていない」
「それを嬢ちゃんは何年続けてきた」
「……」
「そういうことだ」

無言は肯定と言わんばかりに納得した表情を浮かべた溝六は満足げに手に持った徳利から酒を呷った。
しばらくすると泥門の面々も起きてくる。
そして始まったのは”インディアンランニング”と呼ばれる練習方法だった。
爆裂突破力、つまり、ゆったりとしたペースから急激にトップスピードまで持っていくための力をつけるトレーニングである。
メンバーでランニングを行い、ビリを走っているものに罰ゲームが課せられ、トップまでダッシュ。その繰り返し。
朝から始められたそのランニングは日が暮れるまで行われた。
マネージャーである姉崎はメンバーのケア、対して悠里はインディアンランニングを見ながら集計を取っていた。
何度ビリになったかと、ランニングペースとトップスピードの比較とその数値の洗い出しだ。
パソコンに打ち込まれた数値と計算結果は見やすくグラフにまとめられ、そのデータはファイルとしてまとめられ、ご丁寧にパスワードをかけられた。

「あとで送っとけ」

背後でその姿を眺めていたヒル魔は、それだけを悠里に投げつけるとその場を去った。








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