終焉に開いた幕、魔法の溶けたシンデレラ



春大会初日。
大体のメンバーは駅集合であったが、悠里は別行動。ひとりいち早く会場入りを果たしていた。
動きやすいストレッチ生地のスキニーパンツに、通気性のよい長袖のパーカー。シンプルな出で立ちだが、持ち運び用のノートPCと真剣ににらめっこしている様は、どこの優秀なスカウティングかと誰しもが足を止めて見つめるほどだった。
泥門の試合は午後からになっている。
午前中からやっていた試合が一通り終わった頃、泥門メンツがぞろぞろと会場入りした。

「今日の初戦は、恋ヶ浜キューピット」

今日の会場になっているフィールドの高校である。つまり今回はあっちがホームゲームで、こっちがアウェーである。
その結果なのか、そうじゃなくてもこんな感じなのか、恋ヶ浜サイドはどうにも桃色の空気を醸し出していた。

「恋ヶ浜キューピット。選手は全員彼女持ちだな」

そんな無駄情報まで手に入れてるのかと、悠里は半ば呆れながらヒル魔を見遣った。
しかしそのヒル魔の言葉に火がついたのは助っ人の面々だった。
どうやら泥門の面々に彼女持ちはいないようだ。
するとどこからの情報なのか、急に助っ人たちはチアリーダーを所望し始めた。
十中八九、口から出任せでヒル魔がついた嘘なのだろうと悠里はげんなりした。
自分で蒔いた種だというのに騒ぎ立てる助っ人たちに舌打ちをしたヒル魔は、ジャリプロ所属のアイドル、桜庭春人を餌に恋ヶ浜サイドの女の子たちを次々と泥門へと呼び寄せ、チアリーダーに仕立て上げた。

「これで満足か!」
「おおーー!!」

男とは現金な生き物である。
ジャリプロ釣られた女にも言えることではあるが。

ユニフォームの事はセナに任せ、悠里はドリンクを用意しながらヒル魔と今日の作戦について話し合っていた。
とはいえ助っ人だらけのチームに作戦も糞もないのだが。

「セナを出すつもりは?」
「ここぞと言った時には出す。が、余計な情報はないほうが今後有利に働く」

今日の試合は弱小同士であり、注目している人は少ない。
しかしどこに敵チームの偵察部隊がいるとも限らない。
特に、この試合に勝てば次の対戦相手は、東京都でも強豪と名高い王城ホワイトナイツなのだから。

「そう思えば、セナってアメフトのルール知ってるのかな……」

昨日朝練に出たばかりのセナがアメフトのルールを知っているとも思えなかった。
助っ人勢は少なくとも運動部所属であるから飲み込みは早いだろうが、セナは違う。
悠里は一抹の不安を抱きつつ、キックオフを待った。





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