終焉に開いた幕、魔法の溶けたシンデレラ


放課後。
翌日が春大会初日であることを知ったアメフト部面々は助っ人集めをすることになっていた。
アメフトは基本的に11人で行われるスポーツだ。
人数の多い強豪校は攻守でメンバーを変えたりするので、アメフト部の人数は自然と多くなる。
しかしこの泥門高校においてアメフト部は”弱小”というレッテルを貼られている。誰も好き好んで弱小の部活に入ろうとは思うまい。
助っ人ノルマ3人を掲げ、放課後の運動部へ突撃である。

「セナ、助っ人集め頑張ってね」

同じクラスのセナに悠里は声をかけた。
どうしたものかと机に突っ伏すセナを見兼ねたのである。

「え、悠里、は?」
「ヒル魔さんから免除受けてる。明日の準備しておけってね」
「ず、ずるい……!」
「じゃあセナ変わる?明日のアメフトの試合に必要なものをあの汚い部室から探し出してまとめる?足りないものは買い出しに行って領収書もらってきて部費で落とす?」
「スミマセンデシタ」

想像して自分に無理だと判断したセナは顔面蒼白にしながら謝り倒した。

「助っ人集めも楽じゃないだろうけど頑張って」

ひらひらと手を振りながら悠里は一足先に教室を後にした。

部室で荷物をまとめていると、最初にやってきたのはヒル魔だった。

「お疲れ様です」
「おー」

スタスタと壁に貼られたホワイトボードまで近づくと、ペタペタとマグネットを貼っていく。

「順調そうですね」
「まァな」

ニタリと口角を上げたヒル魔は懐から取り出した黒い手帳、脅迫手帳をヒラヒラと見せびらかした。
ホワイトボードに貼られたマグネットの数は7つ。すでにヒル魔のノルマは終わっている。

「……あの二人、助っ人集められますかね」
「十中八九無理だな」

どちらかといえば心優しい二人は、嫌だと断られればそのまま引き下がるタイプだろう。ヒル魔は拒否の言葉が出た瞬間に脅迫ネタを突きつけてでも強制参加させているのだろうから。

「適当にもう一回りしてくらぁ」
「はい」
「足りねえもんがあったら連絡しろ」

そう言い残すと、ヒル魔は部室を出て行った。

その後やってきたのは助っ人が一人も集められず、しおしおになった栗田。
そして汗だくになりながらもなんとか一人助っ人をゲットしたセナだった。

「8、人」
「ひとり、たりない」

助っ人の8人と栗田とヒル魔。総勢10人。
10人ではアメフトはできない。

「もうひとり、僕が、僕が出ればーー」

セナが何かを決意したように口を開いた瞬間、それよりも大きな音を立てて開いたのは部室の扉だった。

「あの糞コンビニ!!無糖ガム切らしやがって!!!」

怒号とともに飛んできたコーラは、ヒル魔なりの労いなのだろう。
そして何かに気がついたようにホワイトボードまで近づく。

「おっと、途中から貼るの忘れてた」

そして集まったのは11人をゆうに超える助っ人だった。

「やった!!」

ハイタッチをして喜ぶ栗田とセナを見遣り、米神の欠陥をブチ切れさせるヒル魔。

「ほとんど俺一人で集めてんじゃねえか!コーラ返せ!干からびて死ね!!」

ゲシゲシと二人を足蹴にするヒル魔。

「糞碧眼、荷物はまとまってんな?」
「ここに」

結局暗くなるまで荷物まとめに時間がかかってしまった悠里もまたその顔に疲労の色を覗かせていた。
気づいたのはヒル魔くらいだろうが。

「糞デブは罰ゲームでこの荷物運びだ!」

いくらまとめたとはいえ山のような荷物。
セナが罰ゲームじゃなくてよかったと、悠里は安堵のため息を吐いたという。







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