御旗 | ナノ






 日本列島は北の大地。桜前線は南から北上を続け、北の大地へと到来していた。その昔、蝦夷と呼ばれ、改変後に北海道と呼ばれるようになった土地。
 梅の季節は、過ぎ去った。

「ごめんください」

 今や珍しい木製の引き戸がカラカラと甲高い悲鳴をあげながらその役目を果たす。黒色のスーツを着た男たちは玄関先で声をあげた。呼び鈴などない。

「……懲りないですね、貴方たちも」

 家屋の奥から出てきたのは菫色の着流しを着た一人の女性だった。上には灰青の羽織。裏地には柳染が使われており時折覗いて見せていた。
 踝の辺りまで伸ばされた白銀の髪の毛が揺れ、鋭い深緋の双眸が男たちを射抜いていた。
 縮みあがりそうな視線に、男たちの喉が上下に動いた。

「碧月殿、お話だけでも……」
「何度も云っているでしょう。私はもう、人の政に関わるつもりはない」
「ではせめて、この映像を見てはいただけませんか」

 一人の男が身につけていた腕輪を操作すると、空中にシュンッと、画面が現れた。空中映像照射器である。鮮明に映し出されているのは、この家屋と似ているように見えた。

「貴方方が……本丸、と呼んでいるものですね」
「そうです」
「審神者殿は、それぞれ本丸を持って活動しているのでしょう。その映像を見せてなんとするのです?」
「……」

 立派な日本家屋、日本庭園。季節は春が過ぎ去った頃のように見える。場所はわからないが、最近の映像のようだと、碧月と呼ばれた女は冷静に分析していた。
 ふと、映像が切り替わった。どうやら本丸の中らしい。立派な屏風絵、真新しい畳、使い勝手の良さそうな階段箪笥。そして、一組の布団。

「……」

 布団の上には人型が二つ。
 一人は女のようで、もう一人は男のようだった。
 随分と俗物的なものから離れていた碧月だが、それが何をしている映像なのかは理解できている。

「……この私に他人の同衾している映像を見せてなにを?」
「何も、思いませんか? 感じませんか?」
「なに、を……!!」

 何を言うのかと思ったが、碧月は一つの違和感を感じた。それは、碧月だったから感じ取れた違和感である。

「……この、男の方は、人ではないですね?」

 碧月は確信を持って男たちに問うた。

「はい、その通りでございます」
「貴方たちが見せる映像において人ではないもの……これが、貴方たちの言う刀剣男士というものなのですね」
「左様」

 映像に映っていた男は刀剣男士と呼ばれるものであった。それは刀に宿る付喪神を審神者と呼ばれる力の持つものが具現化したものであるとされている。
 その刀剣男士が、何故、女に組み敷かれているのか。

「……この女、審神者ですか」
「はい」
「……まさか、」
「その、まさかなのでございます。碧月殿、お話、聞いてはいただけませんか」
「……」

 画面は移り変わり、薄暗い部屋が映し出された。
 そこには傷だらけの男が膝を抱えていた。幼子のような姿形をしたものから、成人済みであるような男まで。
 部屋の様相から、そこが手入れ部屋であるのを碧月は察していた。

「……わかりました、とりあえず上がってください。お茶でも淹れましょう」

 男たちから視線を外した碧月はさっと踵を返した。



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