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 江戸時代と呼ばれる時代がある。
 三百年という長い間平安を保ち続けた徳川幕府の時代である。
 その江戸時代の終わり、つまり、幕府の時代の終わり……幕末。様々な思考思想が渦巻く最中、刀と銃が交わる時代。その渦中に一つの集団があった。
 今や知らぬ者はいない。その名は、新選組。最後まで刀を持ち戦い続けた武士達の名前である。
 しかし、そんな新選組も初めから有名だったわけではない。初めはただの腕の立つだけの浪士集団。京の都は壬生村に屯所を構えていた彼らは”壬生狼”と言われ、京の民草から嫌われていた。
 彼らが壬生浪士組から新選組へと変わったのは、あの八月十八日の政変の後であった。そして新選組の名前が良くも悪くも広く知れ渡るようになったのはあの池田屋事件がきっかけであった。

 そんな新選組には、外部に漏らされることのない組が存在した。表向きは監察方と呼ばれるその役職は、新選組内では零番組と呼ばれていた。新選組内外の監察が仕事である。もし、新選組に仇なすと判断されればそのものの末路は死である。
 そんな零番組の組長を務めていたのが碧月千里という人物であった。前述した通り零番組の仕事は裏方であり、尚且つ、絶対的信頼がないとできない仕事なのである。この碧月千里という人物は、新選組副長であった土方歳三から絶対的な信頼を受けていた。
 零番組の隊務上、歴史の表舞台に立つことは多くなかった。事実碧月千里という人物が新選組にいたこと、そして相当な剣の使い手であったことくらいは記録として残っているが、それ以上の情報は今、現代においてもそう多くは残されていない。
 もう一つ、情報の少なさには理由がある。
 それは、今、2205年現在、この碧月千里という人物が生きており、自分の力で情報隠蔽ができているからであった。

 情報隠蔽工作というものは時に気持ち良いくらいに働くことがある。技術が発達し、歴史学という分野において解明されていないことの方が少ない現代。幕末の大きな問題は、綺麗にもみ消されているのだから。
 幕末。黒船の来航により、時代が混迷を極めていた頃。幕府はとある薬を手に入れていた。その薬の名前は変若水(おちみず)。飲めばたちまち身体に劇的な変化が起きる。人とは思えないほどに身体能力が向上するのである。しかし、それと引き換えに、日中の活動は困難となり、血に飢える化物と化してしまう劇薬でもあった。
 幕府は秘密裏にこの薬を研究。その研究の場として新選組は使われていた。
 秘密裏ではあったものの戊辰戦争の頃にもなれば、その戦場に変若水を飲んだ化物、通称”羅刹”はいたるところでその力を振るっていた。
 そして戊辰戦争が終わると同時に、その存在は消えて無くなった。旧幕府側も新政府側も、この羅刹の存在を消すことに関しては手をとりあったのである。その結果、様々な技術の発達した今もなお、変若水と羅刹の存在を知るものはほんの一握りなのである。



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