御旗 | ナノ



「えぇ! あの時俺が相手したあの金髪の男も鬼だったの!?」

 昔話に花を咲かせれば清光が声を荒げた。
 沖田総司が苦戦どころか圧倒させられた相手、その正体が鬼だと知る前に沖田総司の元を離れていたのだから知らないのも無理はないのだが。

「こんなこというのもなんだけど、そりゃ、勝てないわ……」

 沖田総司は確かに天才だった。腕利きの揃っていた新選組の中でも飛び抜けていた。
 だからこそ、誰かと対峙しても、苦戦はあっても圧倒されることなんてないと、誰しもが思っていたのだ。

「鬼ってやつのことは、詳しくないが、そんなにも人の子と違うものなのかい?」

 一度その場から立ち去り、お茶を入れ直した上に、どうやら厨の棚にあった最中を見つけてくすねてきた鶴丸が千里の隣に腰をかけて口を開いた。

「言い方は悪いけど化け物のような奴らだったよ」

 鬼たちと剣を交えたのは何もその池田屋の時だけではない。その時のことを思い出したのか、安定は眉根を寄せた。

「力は強いし、というか身体能力がまず人間のソレじゃない。加えて傷なんかすぐに治るから、生半可な攻撃は意味をなさない」
「なにそれ、まるで”新撰組”じゃん……」
「は???」

 清光の言葉に疑問を抱いたのか、鶴丸は首をかしげた。

「それは何かの暗喩か? 新選組が鬼のように強いとかいう……?」
「清光ってさ、中途半端に知識持ってるからむしろめんどくさいんだけど」
「はぁ!?」

 安定からの言葉に激昂する清光を千里は片手で制した。眉間にこれでもかと皺を寄せる清光を撫でる。

「そんな顔では、せっかくの可愛い顔が台無しだよ、清光」
「っ」

 千里にそう言われ息を詰まらせる。二の句が出せず口を金魚のようにパクパクさせている清光の口に、千里はひょいっと金平糖を放り投げた。

「歴史改変と言ってしまうと、混同してしまいそうになるが、少なくとも歴史の中で歴史改変がゼロであったとは言い難い」

 千里は何かを噛みしめるようにして言葉を紡いだ。

「……下手すると知っているかもしれないね、鶴丸国永」
「ん?」

 鶴丸国永という刀は数奇な運命に翻弄された刀である。
 2205年でも不明瞭なところがいくつかあるが、確実なのは、山城を代表する刀工、五条国永の作であるということ。一度あの織田信長が手にし、後に伊達家に伝来する。明治の世になってから明治天皇へ献上されており、今もなお皇族が保管している御物である。

「戊辰戦争で、奥羽越列藩同盟が発足された時、その盟主は仙台藩だった」
「あぁ、そうだった。暫く静かに過ごしていたのに急に騒がしくなったから何事かと思ったのが確かその時だったな」
「確か、伊達慶邦だったか」
「あぁ! 懐かしいな! そいつの跡取りの宗基の手で明治天皇に献上されたんだ」

 そんな話ができる人など、今までいなかった鶴丸は興奮したように頬を上気させた。

「慶應四年の秋口だったか。仙台城を占領した集団があってな」
「む、確か舌先三寸で丸め込まれて城を明け渡したことがあったな」
「その集団が、清光のいうところの”新撰組”だ。その頃にそいつらは”羅刹”と呼ばれていたよ」
「鬼に、羅刹に夜叉とは、なかなかに濃い話だねぇ、こりゃ」

 戊辰戦争と呼ばれている戦いの中にも、幾つかの戦いがある。総称が戊辰戦争なのだ。
 その中でも過酷だったと呼ばれるのが会津戦争、戦場が会津のときであった。
 会津を治めていたのは松平家であり、つまるところ徳川家のものなのである。当時の会津藩主であった松平容保は京都守護職という重要役職でもあった。
 故に、新政府側、特に長州藩からは親の仇、もしかするとそれ以上に敵視されていたのである。
 会津若松目前、母成峠まで攻め入られたとき、歩兵奉行であった大鳥圭介の命で、奥羽越列藩同盟は仙台で再起を図るよう動き始める。

「羅刹と名称していたが、本物の羅刹ではなかったよ。あくまでも、人間をとある薬で鬼のように作り変えた、というだけで」
「全然”だけ”じゃないな?!」








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