「あの本丸がランク弐の状態でいられたのには理由は大きく三つあります」
小指と薬指を折りたたんだ千里はそういった。
「一つ目。彼女自身の神力があまりなく、然程力の強い……つまり、太刀や大太刀が少なかったことです」
「俺以外に太刀はいなかったからな」
あの本丸にあった太刀は鶴丸の言葉通り、鶴丸国永のみであった。そのほか、大太刀や槍、薙刀も、あの本丸に顕現されてはいなかった。
「二つ目は先ほどの一つ目にも関連しているのですが、その力のある太刀でも、一期一振がいなかったことでしょう」
「?」
「三つ目。彼女は浅慮でしたが、ひとつ絶対破るなと親と約束したことを守り抜いたからです」
「それは一体、」
「真名を口にしないことです」
「ごめん千里さん、よくわかんない」
眉を下げる清光に千里は問題ないと頭を撫でた。
「もし、清光が誰かの兄だとして、弟が殺されたらどう思いますか?」
急な質問に目を白黒させる清光。今の所、加州清光の兄弟刀は刀剣男士として発見されていない。
「え……殺すかもしれない」
「加州清光は物騒だなぁ」
質問の意図が汲み取れずオロオロしていたものの、あっけらかんと物騒なことを口にした清光に鶴丸は呆れた顔をする。
「安定は?」
「首落とす」
「きみも大概だな」
似たような回答をする二人に鶴丸は苦笑い。
「あの本丸で多く折れた刀は何か覚えていますか、鶴丸」
あの本丸でも古株に当たる鶴丸は、全てではないにしても、その全容を把握していた。
「やはり短刀が多かったよ。秋田に乱、愛染に平野に前田、」
「一期一振というのは、この粟田口派、粟田口吉光の作だ。作り手が同じである粟田口の短刀を弟のように可愛がるという情報がある」
「真逆」
「もしあの本丸に一期一振がいて、彼女が自分の真名を口にしてしまうような人だった場合、まず間違いなく神隠しにあっていただろう」
千里の言葉に空気が固まる。
それを打ち破ったのは清光だった。
「神隠しの概要はなんとなく知ってるけど、殺したいほど嫌いな奴を神隠しする利点なんてあるの……? 俺だったらこの人だと思った人を神隠ししてずっと一緒にいることを選ぶけど……?」
「こうは考えられないか、加州清光」
鶴丸が冷たい目で清光を見遣った。
「神隠しをしてしまえば何もかもこの世に残らない。魂も体も何もかもだ。何もかも残さず殺せるんだ、神隠しをすればな」
「!」
「政府としてはさっきあげた理由がどれか一つでも解消された瞬間、またはそれ以上の状態になったらランク参にする予定だったと私は推測していた、ただそれだけだよ」
ただそれだけ、そんな雰囲気ではないのを清光も安定も感じていた。
今回はたまたまあの主があまり強い力を持っていなかったから話し合いで済んだに過ぎない。
もし、強い力を持っていて、もっと太刀や大太刀などがあの場にいたとしたら今頃……。
「次に来る任務は、そういう場所かもしれないということだけは、肝に命じていたほうがいいかもしれない」
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